二人の歩幅が揃うまで
「あの、綾乃さん。」
「はい。」

 すぅと小さく息を吸う音が聞こえた。

「オーナーにお願いしてみるので、お店の閉店時間過ぎても来てもらうことは…できますか?」
「できるけど、遅くなっちゃう…と思います。これから電車に乗るので…。」
「11時くらいですかね、駅に着くの。」
「多分、そのくらいかなと。」
「わかりました。綾乃さんが無理じゃないなら、お願いしたいです。」
「無理じゃ…ないです。急ぎます!では後程!」

 綾乃は電話を切った。なるべく早く、待たせないように足に気合を入れる。

「久しぶりに走る!」

* * *

「オーナー、お願いがあります。」

 食器を下げながら、健人は口を開いた。

「うん。どうしたの?電話の要件は?」
「綾乃さんから。」
「お、そうだったんだ。何だって?」
「これから帰ってくるらしくて、誕生日おめでとうだけでも伝えようと思って電話くれたみたい。…誕生日のこと、いつの間に話したの?」
「湯本さんと僕の仲だよ。」

 にやりと笑うオーナーの顔は少しだけずるい。

「ところで、お願いって?」
「閉店後のキッチンを使わせてほしい、です。あと、この場所も。」
「片付けをちゃんとやるならいいよ。」
「ありがとう!」

 ぱあっと明るい笑顔になった健人に、オーナーは言葉を続けた。

「…多分あと1時間もすればお客さんも減ると思うし、湯本さんが駅に着きそうな時間には迎えに行ってあげなさいね。」
「うん。ありがとう。10時半過ぎたら準備する。」
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