二人の歩幅が揃うまで
目を開けると、不意に健人と目が合った。途端にとてつもない羞恥心に襲われて、ぎゅっと目を閉じる。唇が離れて、甘い息がまた落ちる。先にその空気を揺らしたのは健人だった。
「綾乃ちゃん?」
「…今、すっごい恥ずかしかった、一瞬。」
「なんで?」
「け、健人…キスの時、目、開けてるの?」
「えっ?あ、いや、普段はね閉じてる。でも今日は…開けてるときも多いかも。」
「なんでっ…?」
いつものふにゃりと笑う健人じゃない、違う人みたいな健人がまっすぐに自分を見つめていたことに、今もなお心臓が早鐘のように鳴る。綾乃は胸の前できゅっと両手を丸く握った。そんな綾乃の様子を見て、くすっと小さく健人が笑った。いつもよりも熱をもった手が、綾乃の頬に触れる。
「綾乃ちゃんの様子をね、ちゃんと目に焼き付けておきたくて。痛くなさそうかとか、無理してなさそうかなとか、…どうしたらもっと可愛い綾乃ちゃんが見れるかなとか、全部逃したくなくて…。」
離れたはずの唇がまた綾乃に近付く。唇は頬に、額に落ちる。名残惜しそうな音が残った。
「…健人も可愛くいてよ。じゃないと…。」
「ん?」
「全然落ち着けないよ!ずっとドキドキしっぱなしで。」
「…ふふ。ごめんね、綾乃ちゃん。いつもはね、綾乃ちゃんが落ち着ける場所でありたいなって思ってるけど。」
額がそっと重なって、咄嗟に一度目を瞑った綾乃がゆっくりと目を開ける。視線を少しだけ上に上げると、またしても可愛くはない健人と目が合った。
「こういういちゃいちゃの時は、いっぱいドキドキしてほしいなって。いつもと違う、今まで見たことない綾乃ちゃんがたくさん見れて、すっごく嬉しい。もっと綾乃ちゃん、ちょうだい?」
こんな健人は、知らない。さっきはこんな風じゃなかった。ただバクバクと鳴る心臓が少しでも早く鎮まるように、綾乃は胸を押さえるばかりだ。
「…綾乃ちゃん?」
「ま、待って。もうちょっと気持ち、落ち着いてから…。」
「んー…落ち着かない綾乃ちゃんも可愛いから、待てしなくても…いい?」
「ちょっと首傾げたら私がダメって言えないの、わかっててやってる!?」
「首傾げる…あ、さっきのか。これやると、ダメって言えなくなっちゃうの?」
「っ…あの、ほんと…お願い、待って。今、心臓、結構痛いくらいで。」
「じゃあ、ぎゅってして待つね。」
綾乃を見下ろしていた健人が、綾乃の横に降りてくる。伸びた腕がすっぽりと綾乃を抱きしめた。
「…ドキドキがさっきよりもずっと速いね、綾乃ちゃん。」
「誰のせいだと…!」
「…俺のせいだって自惚れてもいい?」
「自惚れじゃないから!」
「綾乃ちゃん?」
「…今、すっごい恥ずかしかった、一瞬。」
「なんで?」
「け、健人…キスの時、目、開けてるの?」
「えっ?あ、いや、普段はね閉じてる。でも今日は…開けてるときも多いかも。」
「なんでっ…?」
いつものふにゃりと笑う健人じゃない、違う人みたいな健人がまっすぐに自分を見つめていたことに、今もなお心臓が早鐘のように鳴る。綾乃は胸の前できゅっと両手を丸く握った。そんな綾乃の様子を見て、くすっと小さく健人が笑った。いつもよりも熱をもった手が、綾乃の頬に触れる。
「綾乃ちゃんの様子をね、ちゃんと目に焼き付けておきたくて。痛くなさそうかとか、無理してなさそうかなとか、…どうしたらもっと可愛い綾乃ちゃんが見れるかなとか、全部逃したくなくて…。」
離れたはずの唇がまた綾乃に近付く。唇は頬に、額に落ちる。名残惜しそうな音が残った。
「…健人も可愛くいてよ。じゃないと…。」
「ん?」
「全然落ち着けないよ!ずっとドキドキしっぱなしで。」
「…ふふ。ごめんね、綾乃ちゃん。いつもはね、綾乃ちゃんが落ち着ける場所でありたいなって思ってるけど。」
額がそっと重なって、咄嗟に一度目を瞑った綾乃がゆっくりと目を開ける。視線を少しだけ上に上げると、またしても可愛くはない健人と目が合った。
「こういういちゃいちゃの時は、いっぱいドキドキしてほしいなって。いつもと違う、今まで見たことない綾乃ちゃんがたくさん見れて、すっごく嬉しい。もっと綾乃ちゃん、ちょうだい?」
こんな健人は、知らない。さっきはこんな風じゃなかった。ただバクバクと鳴る心臓が少しでも早く鎮まるように、綾乃は胸を押さえるばかりだ。
「…綾乃ちゃん?」
「ま、待って。もうちょっと気持ち、落ち着いてから…。」
「んー…落ち着かない綾乃ちゃんも可愛いから、待てしなくても…いい?」
「ちょっと首傾げたら私がダメって言えないの、わかっててやってる!?」
「首傾げる…あ、さっきのか。これやると、ダメって言えなくなっちゃうの?」
「っ…あの、ほんと…お願い、待って。今、心臓、結構痛いくらいで。」
「じゃあ、ぎゅってして待つね。」
綾乃を見下ろしていた健人が、綾乃の横に降りてくる。伸びた腕がすっぽりと綾乃を抱きしめた。
「…ドキドキがさっきよりもずっと速いね、綾乃ちゃん。」
「誰のせいだと…!」
「…俺のせいだって自惚れてもいい?」
「自惚れじゃないから!」