二人の歩幅が揃うまで
好きなものを一つずつ
* * *
3人でケーキを食べた7月が終わり、実家に帰省するお盆が終わると8月も終わりかけていた。毎年のことだが、いわゆる夏らしいことはほとんどしていない気がする。暑さが尋常ではない。毎年思っているが今年も例に漏れずそうだった。8月終わりの金曜日、もうすぐ終業時刻。今日は久しぶりに自分を甘やかすことにする。
「いらっしゃいませ。」
オーナーが出迎えてくれる。すっかり常連となった綾乃はにっこりと笑顔でその言葉を受け取る。
「いつもの席、空いてますよ。」
「ありがとうございます。」
「今日は金曜日なのに、あまりお疲れではなさそうですね?」
「今週はなんとか、体力配分を間違えずに済みました。」
「それはよかった。」
綾乃がいつもの席に座ると、カウンターの奥でパスタの盛り付けをしている健人が目に入った。盛り付けを終えた健人と目が合う。いつもの柔らかい笑みが、綾乃の心をほぐしてくれる。
「トマトとシラスの冷製パスタをお願いします。サーモンのマリネと白ワインの…これ…お願いします。」
カウンターに向かってメニュー表を立て、指でさした。やや長い名称を言うのを躊躇して、これと濁してしまう。
「お酒も飲まれるんですね。」
「普段は全然ですよ。そんなに強くもないですし。でも今日は1週間がスムーズに終わって気分がいいので、ちょっとしたご褒美です。」
「じゃああとで、僕からのサービスで1品出しますね。秋の試作品なんですけど、良ければ感想をいただきたくて。」
「嬉しいです。ありがとうございます。」
こうしてたまに出される試作品をこそっといただく。ここでの食事は特に代わり映えしない毎日に彩りを添えてくれる。
「あの、綾乃さん。」
「はい、何でしょう?」
手はしっかりと動かしつつ、やや気まずそうな表情を浮かべている健人に、綾乃は頭の中でクエスチョンマークが浮かぶ。
「9月15日は、仕事終わり…お時間ありますか?」
「えっと、15日って…火曜日。あ、はい。特に予定は。」
「お店に来ていただくことは…できますか?」
「…?」
火曜は定休日、だったはずだ。
3人でケーキを食べた7月が終わり、実家に帰省するお盆が終わると8月も終わりかけていた。毎年のことだが、いわゆる夏らしいことはほとんどしていない気がする。暑さが尋常ではない。毎年思っているが今年も例に漏れずそうだった。8月終わりの金曜日、もうすぐ終業時刻。今日は久しぶりに自分を甘やかすことにする。
「いらっしゃいませ。」
オーナーが出迎えてくれる。すっかり常連となった綾乃はにっこりと笑顔でその言葉を受け取る。
「いつもの席、空いてますよ。」
「ありがとうございます。」
「今日は金曜日なのに、あまりお疲れではなさそうですね?」
「今週はなんとか、体力配分を間違えずに済みました。」
「それはよかった。」
綾乃がいつもの席に座ると、カウンターの奥でパスタの盛り付けをしている健人が目に入った。盛り付けを終えた健人と目が合う。いつもの柔らかい笑みが、綾乃の心をほぐしてくれる。
「トマトとシラスの冷製パスタをお願いします。サーモンのマリネと白ワインの…これ…お願いします。」
カウンターに向かってメニュー表を立て、指でさした。やや長い名称を言うのを躊躇して、これと濁してしまう。
「お酒も飲まれるんですね。」
「普段は全然ですよ。そんなに強くもないですし。でも今日は1週間がスムーズに終わって気分がいいので、ちょっとしたご褒美です。」
「じゃああとで、僕からのサービスで1品出しますね。秋の試作品なんですけど、良ければ感想をいただきたくて。」
「嬉しいです。ありがとうございます。」
こうしてたまに出される試作品をこそっといただく。ここでの食事は特に代わり映えしない毎日に彩りを添えてくれる。
「あの、綾乃さん。」
「はい、何でしょう?」
手はしっかりと動かしつつ、やや気まずそうな表情を浮かべている健人に、綾乃は頭の中でクエスチョンマークが浮かぶ。
「9月15日は、仕事終わり…お時間ありますか?」
「えっと、15日って…火曜日。あ、はい。特に予定は。」
「お店に来ていただくことは…できますか?」
「…?」
火曜は定休日、だったはずだ。