二人の歩幅が揃うまで
 しばらくして並んだのは、豚汁にメカジキのバター醤油ソテー、ほうれん草のおひたしにこふきいもだった。

「うわぁ~…本当に全部作ってくださったんですか…。」
「誕生日、本当にこれでいいんですか、湯本さん。」
「こんなに品数食べれるの嬉しいですし、全部本当にすごく好きなんですよ…嬉しい…。」

 確かに誕生日らしさは全くないメニューではある。しかし、どれも綾乃の好きなメニューなのだ。そして、ここ最近ではほぼ作っていないメニューでもあり、嬉しさはこの上もない。

「健人くんが作ったのはどれですか?」
「僕は豚汁とメカジキを担当しました。オーナーは明日の仕込みがあったので、軽めのほうをという感じで。」
「湯本さんを祝いたいと言ったのは健人ですからね。頑張るメニューは健人の担当ですよ。」
「お二人の和食、楽しみです!いただきます。」

 綾乃たっての希望で、二人も席に着く。健人の誕生日のケーキも3人で食べたのだ。だから自分の誕生日を祝ってもらえるのならば、3人で食事がしたいとお願いした。
 まずは豚汁を口に運ぶ。じゃがいもも大根も口の中でほろっと形を崩していく。味噌も、自分の家で使っているものとは違うのか、味が違う。

「…お口に合いましたか?」
「美味しいです…!味噌が多分うちのとは違うのかな。なんだろう…すっごく美味しいです。」
「よかった…。」

 ふぅ…と小さく息をつく健人を見ると、綾乃も思わず笑みが零れた。そんな二人を見てオーナーも微笑む。

「家では和食のほうが多いくらいなんだけどね。店では提供しないから、湯本さんには珍しく映ったかな?」
「はい!でもやっぱり、お料理が上手な人は何を作らせても美味しいんですね…。本当に美味しい。全部美味しいです。」

 健人とオーナーは目を見合わせて笑った。

「そこまで喜んで食べてもらえるなら、作り手冥利に尽きますよ。」
「頑張ってよかったな、健人。」
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