二人の歩幅が揃うまで
 次いで出てきたサラダは特製ドレッシングが美味しくて、ぺろりと完食してしまった。

「今日のパスタは、春キャベツとベーコンです。」
「わぁ、ありがとうございます。」

 湯気が立つプレートに、春キャベツとベーコンがたくさんのっている。

「いただきます。」

 春キャベツのシャキシャキ感とほどよい甘さに、ベーコンのしょっぱさが美味しい。人の作ってくれた食事はなぜこんなにも美味しいのだろう。しかも片付けもしなくていいなんて、今の綾乃には天国に見える。

「…美味しい。安心する味…。」

 思わず口をついて出た言葉は、湯気に混ざって消えていく。ボリュームも申し分なくて、ゆっくり咀嚼して食べ終わる頃には満腹だった。ふわぁと小さなあくびが溢れてくるくらいにはお腹も心も満たされて、次は睡魔がやってきてしまう。そうなる前に、帰らなくては。
 伝票をもってレジに向かうと、出てきたのは40代後半くらいの男性だった。

「1540円でございます。…丁度頂戴します。」

 あれだけ食べて、あんなに美味しくて1540円だったら週1くらいで通いたいくらいだなんて思うくらいには疲れている。はぁと小さく息を吐くと、男性は少しだけ柔らかく微笑んで口を開いた。

「お疲れのようですね。」
「あっ、えっと…すみません。」
「ああいえ。食べているときは随分明るい表情をされていたのにな、とフロア担当が申していたもので。」

 フロア担当は接客してくれた彼だろう。若い子だったのに、なかなか目ざといようだ。
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