二人の歩幅が揃うまで
「はぁ~美味しかったです。お片付け、手伝います。」
「片付けは僕がやりますので、健人、綾乃さんのこと送っていきなさい。」
「えっ、いや、お片付け…。」
「明日もお仕事でしょう?片付けはそんなにありませんし、はい、こちらは今日のお土産です。」

 タルトを包んでもらい、持たされる。オーナーに背を押され、半ば強制的に外に出た。9月はまだ少し蒸し暑くて、秋の香りはまだ遠い。

「リクエスト、たくさん聞いてもらっちゃって…美味しい誕生日になりました。」
「…美味しい誕生日って響き、いいですね。」

 健人は誕生日に、綾乃からシルバーのシャープペンシルをもらった。普段行くようなところではなかなか見ないようなフォルムで、自分の普段の持ち物の中で、唯一高級感のあるものだ。大学の講義で使えそうなもので…と考えてくれた結果らしかった。貰ってからはずっと使っていて、書きやすさからもそれなりの値段がするものなのだろうと考えていた。それに見合うものを、今日は返せたのだろうか。

「前にどんなケーキでも嬉しいって言ったら、逆に難しいって綾乃さん、言っていたじゃないですか。」
「ああ、ありましたね。実際、健人くんが好きなケーキとかわからなかったから…。」
「僕も同じ問題に直面しました。」
「同じ問題?」
「綾乃さんが何を好きかわからなくて、…結構悩みました。あの、これ…誕生日プレゼントです。」

 小さな紙袋が、そっと差し出される。

「…ありがとうございます。中身は何か、聞いてもいいですか?」
「入浴剤です。これからの季節に丁度良いかなっていうのと、睡眠の質が上がるという効能があるみたいで。」
「そうなんだ!ありがとうございます。疲れた日の贅沢に、使わせてもらいます。」

 にっこりと笑う綾乃につられて、健人の口元にも小さく笑みが浮かんだ。綾乃の誕生日まで、なんだかずっと緊張していた気がする。ちゃんと美味しいものを提供できるかどうか、プレゼントは喜んでくれるかどうか。そんな不安も、この笑顔一つで吹っ飛んでしまうから不思議だ。
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