二人の歩幅が揃うまで
「綾乃さんからいただいたシャーペン、すごく書きやすくてずっと使っています。」
「あ、良かったです。色違いで私も使っているので、書きやすさには自信があったんですけど、大学生の男の子に何あげたらいいのかなって、そこは私も悩んじゃいましたね。」

 今更ですが、と綾乃は付け加えた。健人の表情から察するに、相当色々考えてくれていたのだろう。もしかすると、健人の誕生日にプレゼントを渡してしまったために、こうして自分も何か…と考えさせてしまったのかもしれない。

「もしかして、ものすごく気を遣わせてしまいましたかね?私が先にプレゼントあげちゃったから…。」
「あ、いえ!あの日、…その、すごく嬉しかったので、今日はちゃんと返したいな、とは思っていました。悩んだのは事実ですけど、それは綾乃さんのせいじゃなくて、単に僕があれこれ考えすぎただけなので。」
「…あんまり相手のことを知らないと、プレゼントって難しいですよね。」

 ぽろりと落ちた、本音。それを健人は静かに肯定した。

「…物も嬉しいけど、誰かが自分の誕生日を覚えていてくれて、お祝いしてくれること、それ自体が…今は一番嬉しいです。だから、綾乃さんのおめでとうって言葉だけですごく嬉しくて、その上にプレゼントまで貰っちゃったので、…どこまでやればこれを全部返せるかなって。」
「…待ってください?もしかして、なんかすごくハードルが上がってませんか?私そんなに大したことはしてなかったと思いますけど…。」
「充分、大したことだったんです。」

 少しだけ、いつもよりも低く聞こえた小さな声に切なさが混じっているような気がして、綾乃はそれ以上の追及をやめた。

「…綾乃さんが美味しそうに食べてくれて、綾乃さんが好きな食事も知って、綾乃さんに色々あげたかったはずなのにまた僕が貰ってしまったような気がします。」
「そんなことは全然!…こういう胸が温かくなるような誕生日は久しぶりです、私。」

 気が付くと、綾乃の家までたどり着いていた。

「今日は本当に、来ていただいてありがとうございました。」
「祝っていただいて…ありがとうございました。」

 二人でぺこぺこと頭を下げて、目が再び合うと自然と笑みが零れた。

「おやすみなさい。」
「おやすみなさい、綾乃さん。」

 玄関のドアが閉まるのを見届けてから、健人は背を向けて、来た道を再び歩き出す。

(好きなものが、また一つ増えた。あの、笑顔。)

 少しだけ頬が赤い、照れたような笑顔を健人はその日、初めて見た。
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