二人の歩幅が揃うまで
 パンプスの音が消え、スニーカーが地面を踏みしめる僅かな音だけになった。

「重くない?」
「重くないですよ。」
「嘘つき。」
「嘘は嫌いです。」
「わぁ、健人くんにも嫌いなものがあるんだ。」
「ありますよ。」
「意外な事実を知ってしまった…。いつもふわっと笑ってる感じなのに。」
「そう…ですかね。そうでもないと思うんですけど。」

 少しだけ続いた会話。可愛げもなく嘘つきなんて毒気の強い言葉を吐いたのに、吐かれた本人は気にした風もなく普通に切り返してきた。これではどちらが年上なのかわからない。そんな事実にもなんだか泣きたくなってくる。自分のちっぽけさに嫌気もさす。情緒がジェットコースターだ。しぼんできた気持ちが、声を揺らす。言葉が小さく、健人の耳元に落ちる。

「…ごめんね、迷惑かけちゃって。でも正直助かる。歩くのしんどかったー。」

 しんどいと思っていたのは歩くことだけじゃなかった。さすがにそれを全てここでぶちまけてしまうことはできないけれど、健人のくれた優しさが今の綾乃の涙を押しとどめていることは確かだった。

「迷惑じゃ…ないですよ。…綾乃さんのこと、僕、好きなので。」

 突然の言葉が綾乃の鼓膜を震わせた。

「え?」
「あっ…え、えっと…。」

 言った本人が慌てている。ということは、おそらく言葉を間違えたということなのだろう。好きという言葉にはたくさんの意味がある。自意識過剰にとらえてはいけない。完全に覚醒した頭をふって、綾乃が言葉を続けた。
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