二人の歩幅が揃うまで
* * *

 1週間後の土曜のお昼時に、久しぶりに出かけようかという気になって、薄手の黄色のニットに黒のスキニーを合わせてサコッシュ一つで外に出た。4月も終盤に差し掛かってきたにも関わらず今日は少し肌寒い。
 ヒールの高い靴は苦手だ。歩きやすさを重視して、グレーのスニーカーを履いた。ガチャリをドアを閉めて歩き出し、今日のメニューを想像する。前回と被ってしまうと困るので、今日は先に『今日のおすすめ』が何なのか聞かなくては。今日は前回よりも食べれるように朝食は食べていない。できればデザートまで手を出したい。この前はメニューをちらっと見てデザートを眺める余裕すらなかった。
 歩いて15分。引きこもりがちな綾乃にはちょうど良い距離だった。ドアを開けると、またしても出迎えてくれたのはあの男の子だった。

「いらっしゃいませ。」

 綾乃はぺこりと小さく頭を下げた。健人はにっこりと微笑んで言葉を続けた。

「カウンター席でよろしいですか?」
「あっ、はい。」
「お好きな席にどうぞ。」
「はい、ありがとうございます。」

 前回よりも、作り手のことが見える場所がいいと思って、店の奥のほうのカウンター席に座る。綾乃の丁度目の前には、何かを切っているオーナーらしき人がいた。(綾乃は前回お会計を担当してくれた人をオーナーだと考えていた)

「また来てくださったんですね。」
「1週間頑張ったご褒美です。」
「ご褒美がうちなんて、ありがたいですよ。そうだ、試作品で申し訳ありませんが、他にお客さんもおりませんし、少しだけこれを食べてみませんか?」
「え?」
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