二人の歩幅が揃うまで
積もる『好き』
* * *

「あれ、健人くん?」
「綾乃さん。」

 駅で待ち合わせにしたのに、その10分前に途中で出会ってしまった。健人はいつも通りのダッフルコートに小さめのショルダーバックをかけている。綾乃の方はさんざん悩んで、オフホワイトのフレアスカートに、ネイビーのニットにした。外でコートを脱ぐには寒すぎるが、今日の目的地は室内である。コートを脱ぐ場面が多々考えられるため、コートの下も油断はできなかった。

「ちょっと早く出たのに、待ち合わせよりも先に会っちゃったね。」
「偶然だけど、嬉しいです。」

 ふにゃりと笑う姿はやはり可愛くて、自然と綾乃も笑顔になった。

「綾乃さん、スカートって珍しいですね。」
「う…あ、あんまり似合ってない?」

 突然不安になって、思わず目が泳いだ。そんな姿に慌てたのは健人のほうだった。

「え、あ!すみません!違います!じゃなくて、いつもと雰囲気違うのも可愛いなって思った…だけ、です。」
「っ…あ、ありがとう。」

 頑張ってよかった。照れた顔で綾乃を見つめる健人を見ていると、そんな気持ちが浮かぶ。別に自分がそこまで可愛いとも思っていないし、今更4年戻って同い年の大学生になれるわけでもない。それでも今日は、久しぶりに頑張ったのだ。『可愛い』と言ってもらいたいなんて、いわゆる女子みたいな気持ちを抱えて。

「い、行こう!」
「はい。行きましょう。」

 隣に並んで歩くと、時折健人の手が綾乃の手に触れた。そういう距離なのだ、今日は特に。

「健人くん。」
「はい。」
「練習がしたいです。」
「練習?」

 触れる手に意識を持っていかれそうになって、会話に集中できない。だったらいっそと思って振り絞った勇気だった。
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