二人の歩幅が揃うまで
 小さな丸めのグラスに入っていたのは、見たところによるとトマトとチーズだろうか。

「健人…あ、フロアの彼の案で色々作っているのですが、もしお嫌いなものでなければ試食してみませんか?」
「いいんですか?」
「はい。トマトとミニトマト、モッツアレラチーズ、玉ねぎ、しそが入っていますが大丈夫ですか?」
「はい!全部好きです!」
「それはよかった。」

 にっこりと微笑む表情は、健人と呼ばれた彼に似ている。そんなことを思っていたら、さっきまで入口にいたはずの彼が戻ってきた。

「えっ!お、オーナー?それ試食してもらうの?」

 外れた敬語に本来の二人の関係性を垣間見る。少し焦っている表情はきっと、他のお客さんがいたら見られない。

「女性のお客様の意見はなかなか聞けないし、ちょうど他のお客様もいないし、それに…。」
「?」

 綾乃は首をかしげる。

「とても美味しそうに食事してくださるお客様ですから。」
「えっ!?」

 そんなにわかりやすく表情に出ていただろうか。もしそうだとしたら少し恥ずかしい。少し熱く感じる頬を押さえながら、健人のほうを見ると健人の頬も少し赤くなっていた。

「…お口に合わなかったらすみません。」
「いえいえ!見た目だけでも十分綺麗で可愛いですし、いただけるの嬉しいです。ありがたく頂戴します。」

 綾乃の前に出された小さなグラスにそっと手を伸ばす。サラダだからフォークが正しいのだろうけれど、トマトとチーズをうまく一度にフォークに刺せるかは自信がない。試食というのだから一緒に食べたらどうだとか、バラバラに食べたらどうなるかなど、そういった意見や感想を伝えなければ無駄になってしまう。
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