二人の歩幅が揃うまで
* * *

 聡美と別れて帰宅する帰り道。ふと、スマートフォンが震えた。

「あ。」

 連絡は健人からだった。あまりにタイムリーでドキッとするものの、画面をタップしてその内容を確認する。

『こんばんは。今、お時間大丈夫ですか?』

「…珍しい?今…えっと、大丈夫だけどどうかした?」

 口に出したままに打ち込むと、画面は着信のものに変わった。

「えっ?あ、あっ、も、もしもし?」
「もしもし。綾乃さん?」
「健人くん?」

 電話の声を聞くのは、健人の誕生日以来な気がする。

「…綾乃さん、もしかして外にいますか?」
「あっ、うん、ごめんね。ちょっとまだうるさいところ歩いてて。」
「外にいるときにすみません!」
「あ、ううん。何か用事だったんじゃないの?」
「…用事もあったんですけど。」
「うん。」

 家が近付いてきて、車通りが少ない道にきた。雑音がなくなって、健人が小さく息を吸う音だけが聞こえる。

「綾乃さんが今、何してるのかなと思って。」
「…今ね、歩いてる。家に向かって。」
「もうすぐ着きますか?」
「うん。」
「よかった。…あ、あと、もう一つ話があって。」

(聞いてから言う?でも、それがデートの誘いだったら、デートの後に話せる?…多分無理。)

 綾乃はそう結論付けて、初めて健人の話を手折った。

「…あの、もらった連絡に乗っかってしまって申し訳ないんだけど…。」
「はい。何ですか?」
「今度、健人くんの時間があるときに、…聞いてほしい話があります。」
「わかりました。聞かせてください。」

 ずるずると、甘えてはダメだ。優しい時間が欲しいのならば、その優しさに見合う自分にならなくては。
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