二人の歩幅が揃うまで
「お行儀が悪いかもしれないんですけど、スプーンでいただきますね。」

 健人は心配そうな表情を浮かべている。その一方でオーナーは妙ににこにこと上機嫌にも見える。
 スプーンで一口すくって口に含むと、チーズとトマトの食感にしその酸味がほどよくて美味しい。さっぱりしているので、おそらくもう少し量があっても食べられそうだ。

「どう…ですか?」
「とっても美味しいです!さっぱりしていて、食欲が出ない日でも食べれそうな味で。トマトもチーズも小さめに切られているのでスプーンですくって全部一緒が一番美味しい食べ方かなって思って一口目はそうしましたけど。もしかしてトマト、味違いますかね?」

 綾乃がそこまで言うと、健人の緊張していた表情がやっとほぐれた。そして優しい笑みを返してくれる。

「普通の大きさのトマトを細かく切ったものと、フルーツトマトを入れています。」
「…あの、つかぬことをお聞きしますが、料理系の専門学校とか調理師を目指しているとかそういう方ですか?」
「え?」

 健人の目が丸くなる。たまらなくなって吹き出したのはオーナーだった。

「あはは。面白いことを仰いますね。確かにその道も悪くなかったかもしれませんね。」
「いやだって、とっても美味しいんですよこれ!」
「だから、調理師の卵だと?」

 綾乃はコクコクと頷いた。たったそれだけでそこまで妄想する自分もなかなかだとは思いつつ、盛り付けも味も申し分ないものを、年齢的にはバイトであろう子が専門知識もなしに作れるものなのだろうかと思ってしまった気持ちが、言葉になってそのまま出た。
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