二人の歩幅が揃うまで
 綾乃は真剣な面持ちになる。それを見て、オーナーは柔らかく笑みをこぼした。

「そんなにかしこまらないでください。ただね、最近のあの子はどこか楽しそうで、嬉しそうだということはわかります。」
「…あの、先日、告白された話をしたじゃないですか。」
「はい。」
「…色々と考えて、お付き合いをさせていただくことにしました。」
「…良かったです。思っていたよりも早くまとまったようで。」
「え?」
「おや、驚くようなことですか?遅かれ早かれ、そうなるんじゃないか、というか…そうなってくれたらなと思っていましたよ。」
「そう…ですか…。」
「反対されるとお思いでしたか?」
「…いえ、でもあの…結構だらしない姿を多々お見せしていたので、そういう人間に大事な健人くんを任せたくないっていう気持ちもあるかなって…。」

 綾乃は思っていたことを白状した。酔っぱらうところも、体調管理が完璧ではないところも、何ならデート一つであれやこれやと悩む姿も見せている。健人から見れば4つも年上の、社会人なのに。そんな気持ちがあって、しっかりと伝えようと思って今日は呼んだのだ。

「ないですよ、そんなの。健人があんなに穏やかに笑っているところをまた見れるようになって、嬉しいです。僕にとって大切な子です、あの子は。だから、あの子が決めて、あの子が選んだ人がその手を取ってくれた、振り向いてくれたことに感謝していますよ。」
「…勿体ない言葉、です。」
「たくさん、悩んでくださったんじゃないですか?」

 尋ね方、そして優しさの質が健人と似ていて、涙腺が緩みかける。泣くのは苦手で、できれば泣きたくないのに、その気持ちを健人もオーナーも優しい言葉であっという間に溶かしてしまう。
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