二人の歩幅が揃うまで
 綾乃がドアを開けて、玄関に入る。玄関の明かりがつき、ドアが閉まると、綾乃は後ろからぎゅっと抱きしめられた。

「ん!?ど、どうしたの?」

 腕の中でくるりと向きを変えられ、腕の力が緩んだことで視界が開け、上を見ると健人の顔が近付いてきた。

「…今度やり返しますって僕、言ったので。」

 右頬に触れた、健人の唇。前、額にされた時よりもずっと唇の感触が強くて、熱が触れられたところに集中する。

「また!」
「こっちにも、いいですか?」
「へっ?」

 許可を出す前に、優しく落ちてきた左頬へのキス。

「!?」
「やり返しました。満足です。」

 綾乃はといえば最後に唇が触れた左頬に左手の指をあてながら口をパクパクさせるだけだ。そんな綾乃の目の前にいる健人は、にこにこと上機嫌に見える。

「なんで叔父と二人で食事なのかなとか、どうして自分はそこに入れてもらえないのかなとか色々考えてましたけど…でも、僕が何か悪いことしちゃったとか、綾乃さんの嫌がることしてたとかじゃなくてよかった。安心しました。」
「あ、安心するとキスするの…?」
「触れたくなるみたいです。綾乃さんがいるってことを確かめたい…のかな、多分。そう思います。」
「…不安な要素、ある?いなくなっちゃいそうな感じ、する?」

 健人の温い手が綾乃の頬にそっと触れた。
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