二人の歩幅が揃うまで
　そう言うオーナーの目は優しい。叔父というよりはむしろ父親のような柔らかな眼差しだ。

「本当に美味しかったです。優しい味がしました。…優しい人なんですね、きっと。」
「そうですね。あの子は優しい。そう言ってもらえて僕も嬉しいです。さて、今日は何にしますか？」
「今日のパスタは何ですか？」
「菜の花とフレッシュトマトです。」

　トマトはもしかしたら、少し多めに調達してあったのかもしれない。

「今日のパスタと、デザートにカスタードプリンをお願いします。」
「お飲み物はどうされますか？」
「ちょっと肌寒いので…ホットカフェラテにします。」
「かしこまりました。」

　気が付くと、お客さんが何組か入ってきており、健人はその対応に追われているようだった。
　前回も思ったが、カウンター席というのは見えるものが新鮮で楽しい。作り手の手際の良さもさることながら、食材の切り方、味付けの仕方なども見ていて飽きない。

「そんなにキッチンを凝視するお客さんも珍しいですよ。」
「え、本当ですか？ものすごく面白いです。」
「普段は料理をなさるんですか？」
「…仕事を始める前は、死なない程度に、はい。」

　とたんに声が小さくなってしまった。最近の自分の家事の取り組み具合はどう考えても酷い。

「正直な人ですね。お仕事が忙しいんですか？」
「…新入社員なので、全然忙しくないんですけど、なんというか…気疲れなのかな。どうにもキッチンに立とうという気持ちが…。」

　スルスルと言葉が滑り落ちていく。オーナーが話しやすいこともその理由の一つだが、こうやって誰かに話すことで疲れを癒したかったのかもしれない。
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