財閥御曹司と交わした一途な約束
東京に到着し、空港に迎えにきていた車に乗る。
いかにも高級車という感じで運転士がドアを開けて待っていてくれた。
「美月、乗って」
レディーファーストで背中をそっと押して乗せてくれる。突然の出来事で疲れてしまったのもあるし、不安と恐怖心で体がガチガチになっていた。
到着したのは渋谷にあるタワーマンション。
東京には首が痛くなるほどの高層の建物がたくさんあったが、中でもここのマンションは一番高く見える。
エントランスに入るとコンシェルジュが待機していた。
厳重なオートロックを越えると、エレベーターホールがあり、最上階のボタンを押した。
「実家はここから車で十五分くらいのところに一軒家がある。そこに住んでもいいが、新婚生活は二人で暮らしたいなと思って家を決めさせてもらった。もし気に入らなければ引っ越しするのも構わないし、今後、家を建ててもいい」
私は恐縮しすぎてまともに会話すらできなくなっている。
黙って後ろをついていきカードキーでドアを開けると、広い玄関があった。
入るのに躊躇していると優しく背中を押してくれる。
中に足を踏み入れると、明かりがパッとついた。
左に曲がると長い廊下があり、まっすぐ進めば二十畳はある広いリビングダイニングがあった。
こんなところで生活するなんて信じられなくて夢でも見ているようだ。リビングからは広いバルコニーがあって、そこでくつろげる空間もある。
窓からは夜景が広がっていた。
「昼になると緑も見えるんだ。北海道にいたから自然も必要かと思ってここを選ばせてもらったんだ」
まるで私のことを気遣うような発言だ。
その後、3LDK+2WICの部屋を案内してくれた。
「この部屋は仕事で使わせてほしい。ベッドルームが二つあるのだが、美月も一人でゆっくりしたい時間もあるだろう。ここは好きなように使ってくれ」
「こんなに立派な部屋を提供していただいてもいいんですか?」
私が言うと彼は厳しい表情を浮かべた。
「あんなに大きな旅館のお嬢さんだったのに、あれからもやっぱりそういう扱いしか受けていなかったんだな」
私はハッとしてうつむく。あまり両親のことを悪く言ってはいけない気がしたのだ。
悠一さんと出会った頃は辛くて思わず自分の気持ちを話してしまった。
まだ十七歳だったということもあり、そのことは許してほしい。
「できれば夫婦として寝室で一緒に眠りたいところだが、少しずつでいい。この生活に慣れたら一緒に眠ろう。食事は家政婦が用意してくれるが、自分で作りたかったら自由にキッチンも使っていいし。ここは美月が安心して暮らせる自分の家だ」
大切に思ってくれているのが伝わって胸がふわりと温かくなってきた。
でも母が言っていたように、おじい様の体調が悪いから、安心させるために早く結婚したかったのだ。
愛があって私と結婚したのではない。出会いから五年も過ぎている。変な期待はしちゃいけない。
その夜はケータリングで食事を用意してくれたが、ほとんど食べることができずに私は自分の部屋に行って眠りについたのだった。