あなたと想いが通い合う日を私、……ずっと待ってたはずなのに
第1話 ずっと待ってたはずなのに
私は衣替えをしたての夏服に少し違和感がある。
冬服に慣れていたからかな。
夏が近づく。
雨ばかりの毎日がきて、昨日も激しい雨が降っていた。
◇
私は部活を終えて帰り際に君に呼び止められた。
「菜保子《なほこ》」
君も私もバスケ部で二人してユニフォームを着てた。
体育館からの渡り廊下に立ち尽くす私たちはじっと見つめ合う。
「どうしたの? 大地」
大地と私は小学五年生の時に隣り同士の席になった。
私が困っているとすぐに気づいて大地はヒーローみたいに駆けつけてくれた。
私を信じて助けてくれる大地をどんどん大好きになってた。
いつだって大地は私の味方でいてくれる。
今も大好きだ。
あのころよりきっともっとずっと大好きだ。
大地の真剣な眼差しが私を見つめる。
雨音に負けないぐらいの自分の胸の鼓動が聞こえてきそう。
目の前の大地に聞こえるんじゃないかなと心配になるぐらい。
激しく高鳴る。
大地は合わせた視線をそのままに口を開く。
「俺は菜保子《なほこ》が好きだ」
雨が強くますます激しく降っていた。
「なに? 大地、なんか言った?」
私は臆病者だ。
大地の私への告白が雨の音でかき消されて聞こえない振りをした。
私は分かってた。
私のことを大地が好きでいてくれてること。
大地が私に熱い眼差しを向けているってとっくに気づいていたの。
大地の告白してくれた大切な言葉、胸の内。
心の熱さが私に伝わってくるもの。
大地の私を好きだって言ってくれた声も心もちゃんと私には届いている。
私は大地が好き。
大地も私が好き。
知ってた、分かっていたの。
だけど君の気持ちは受け取れない。
ごめんなさい。
理由は言えないよ。
はぐらかすように普通の態度で私は笑っていた。
「帰ろう大地。きっと知歌《ちか》が待ってるから」
違う。
そんなこと言いたいんじゃない。
『私も大地が好きっ!』
叫びたい。
本当は胸の中に泣きたいほどの喜びが広がっている。
君の気持ちに応えたい。
ありがとう。
私も大地のことが大好きだよ。
だけど言えない。
言っちゃいけないの。
「菜保子」
大地は苦しそうな顔をして私に近づいてくる。
「嘘ついたろ? 俺の告白が聞こえてたはずだ」
どきんっとした。
ちょっと怒ったような大地の顔があまりにも真剣すぎて。
それに大地は私のすぐそばまで歩いて来ていた。
互いの顔が近くなる。
大地の何もかもが私に近づいている。
「お前の嘘はすぐ分かる」
「嘘なんて私は……」
そうだ。
大地にはお見通しだ。
私が大地を好きなことを感じてくる。
「あっ」
大地が私を抱きしめた。
胸がぎゅっとなる。
鼓動が早鐘のようになって息が苦しい。
なのに。
暖かくて心地良い。
大地が私を包むようにしたらドキドキするのに安心する。
嬉しくて。
大地が強く抱きしめ直す度に私は幸せな気持ちにうずもれていく。
大地の腕や胸がたくましい。
いつからこんなに大人の男の人みたいになったの?
「菜保子が好きだ。ずうっとずっと前から好きだ、大好きなんだ」
「大地」
分かってたよ。
私も大地のことが大好きだよ。
「答えてくれ。返事が聞きたい。お前のことを好きな奴がいるんだ。そいつにお前を渡したくない。俺と付き合ってくれ。菜保子を誰にも渡したくないんだ」
「大地、私」
君が好き。
大好きだよ。
あのね。
だけどね。
私の親友も君が好き。
だから、だめなの。
「ごめんなさい。私、大地とは友達でいたい」
私は一番大切な人の勇気を踏みにじったのだ。
一番大好きな人なのに。
傷つけてしまった。
自分の気持ちにも嘘をついて。
君にも自分にも嘘をついてしまったんだ。
冬服に慣れていたからかな。
夏が近づく。
雨ばかりの毎日がきて、昨日も激しい雨が降っていた。
◇
私は部活を終えて帰り際に君に呼び止められた。
「菜保子《なほこ》」
君も私もバスケ部で二人してユニフォームを着てた。
体育館からの渡り廊下に立ち尽くす私たちはじっと見つめ合う。
「どうしたの? 大地」
大地と私は小学五年生の時に隣り同士の席になった。
私が困っているとすぐに気づいて大地はヒーローみたいに駆けつけてくれた。
私を信じて助けてくれる大地をどんどん大好きになってた。
いつだって大地は私の味方でいてくれる。
今も大好きだ。
あのころよりきっともっとずっと大好きだ。
大地の真剣な眼差しが私を見つめる。
雨音に負けないぐらいの自分の胸の鼓動が聞こえてきそう。
目の前の大地に聞こえるんじゃないかなと心配になるぐらい。
激しく高鳴る。
大地は合わせた視線をそのままに口を開く。
「俺は菜保子《なほこ》が好きだ」
雨が強くますます激しく降っていた。
「なに? 大地、なんか言った?」
私は臆病者だ。
大地の私への告白が雨の音でかき消されて聞こえない振りをした。
私は分かってた。
私のことを大地が好きでいてくれてること。
大地が私に熱い眼差しを向けているってとっくに気づいていたの。
大地の告白してくれた大切な言葉、胸の内。
心の熱さが私に伝わってくるもの。
大地の私を好きだって言ってくれた声も心もちゃんと私には届いている。
私は大地が好き。
大地も私が好き。
知ってた、分かっていたの。
だけど君の気持ちは受け取れない。
ごめんなさい。
理由は言えないよ。
はぐらかすように普通の態度で私は笑っていた。
「帰ろう大地。きっと知歌《ちか》が待ってるから」
違う。
そんなこと言いたいんじゃない。
『私も大地が好きっ!』
叫びたい。
本当は胸の中に泣きたいほどの喜びが広がっている。
君の気持ちに応えたい。
ありがとう。
私も大地のことが大好きだよ。
だけど言えない。
言っちゃいけないの。
「菜保子」
大地は苦しそうな顔をして私に近づいてくる。
「嘘ついたろ? 俺の告白が聞こえてたはずだ」
どきんっとした。
ちょっと怒ったような大地の顔があまりにも真剣すぎて。
それに大地は私のすぐそばまで歩いて来ていた。
互いの顔が近くなる。
大地の何もかもが私に近づいている。
「お前の嘘はすぐ分かる」
「嘘なんて私は……」
そうだ。
大地にはお見通しだ。
私が大地を好きなことを感じてくる。
「あっ」
大地が私を抱きしめた。
胸がぎゅっとなる。
鼓動が早鐘のようになって息が苦しい。
なのに。
暖かくて心地良い。
大地が私を包むようにしたらドキドキするのに安心する。
嬉しくて。
大地が強く抱きしめ直す度に私は幸せな気持ちにうずもれていく。
大地の腕や胸がたくましい。
いつからこんなに大人の男の人みたいになったの?
「菜保子が好きだ。ずうっとずっと前から好きだ、大好きなんだ」
「大地」
分かってたよ。
私も大地のことが大好きだよ。
「答えてくれ。返事が聞きたい。お前のことを好きな奴がいるんだ。そいつにお前を渡したくない。俺と付き合ってくれ。菜保子を誰にも渡したくないんだ」
「大地、私」
君が好き。
大好きだよ。
あのね。
だけどね。
私の親友も君が好き。
だから、だめなの。
「ごめんなさい。私、大地とは友達でいたい」
私は一番大切な人の勇気を踏みにじったのだ。
一番大好きな人なのに。
傷つけてしまった。
自分の気持ちにも嘘をついて。
君にも自分にも嘘をついてしまったんだ。
< 1 / 15 >