浜辺で暮らす少女は、王子様を拾う
「今日も貝あるかなー」
ここは浜辺にある農村の一角。磯へ続く小道を歩いている少女の名前はノエル。漁師の父親とその手伝いをしている母親の元でゆっくりと過ごしている。
この日もまた、日課の貝取りに磯まで訪れていたのだった。
「よいしょ…」
磯には貝がいくつか岸壁にしがみつくように生えている。それらをノエルはむしりとって籠の中に入れていく。
「こんなもんかなあ」
籠の中の3分の2ほどが埋まった所で、この日の貝取りを終わりにしようとしていたノエルだったが、そこである事に気づく。
「あれは…?」
ノエルから約20m離れた先に青年が横たわっているのが見える。高貴な見た目をしており、ノエルが急いで彼の元へと近寄るとうめき声が聞こえてくるのが分かる。
(まだ、生きてる…!)
「もし、もしもし!」
ノエルが彼の肩をぽんぽんと叩くと、彼はゆっくりと目を見開いた。
「こ、ここは…」
「ここはミルア村です」
「そうか…」
青年は安心したかのようにまた目を閉じたのだった。ノエルは自分だけでは青年を抱えて運べないと判断した為、近くの漁港まで走り、若い男を2人連れてくる。
「こりゃまあ…」
「もしかしたら王族の者かもしれん」
「こないだクーデターがあったって聞いたよなあ」
ここミルア村から王都までは大分離れており、徒歩だと2週間はかかる程の距離である。そして王都に住む王族内でいさかいがあり、王子王女らはちりぢりに逃げたという噂が村内に流れていたのだった。
ノエルは自身の家の離れまで青年を運び、母親と共に看病する。桶に入れた水と手拭いを持ってきた母親は青年の顔を改めてまじまじと見つめると、こうノエルに告げた。
「この方もしかしたら王族かもしれないわ」
「ほんとう?」
「ローラン様に似ていらっしゃるもの」
すると青年は痛がるそぶりを見せつつゆっくりベッドから起き上がる。
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ…やはり私の事はご存知でしたか」
青年は国王の第四王子ローランであると自身の正体を明かしたのだった。聞けばクーデターによりこちらまで逃れて来たものの嵐に会ったりしてここにたどり着くまでの記憶は一部ないという事だった。
「気を失っていたのもあるかもしれない」
「そうですか…して、これからどうするおつもりで?」
母親の問いに対して、ローランはうつむく。そんなノエルはローランをずっと見つめていた。ノエルの心臓はドキドキと熱く早く動いている。
(欲を言えば、一緒に暮らせたらなあ…)
「あの、一緒に暮らしませんか?」
つい、欲がノエルの口から割って出たのだった。ノエルの母親はそんな無茶な事が、とノエルをいさめようとするが、ローランはまんざらでもない様子で頷く。
「確かにその方が良いかもしれない」
「ですが、王子様がこのような狭い場所で…」
「いや、むしろその方が都合が良いと思う。ここまで追手はこないだろうし」
「確かにそうですね…」
「そうでしょ、お母さん!私もそれが良いと思ったの!」
と、最終的にはノエルのごり押しやローランの頼みもあって、なし崩し的にノエルの家族とローランの同居が決まったのだった。
ローランは家の離れを主な拠点にして暮らす事になった。離れは元は半ば倉庫扱いだったがノエルらが何とか掃除をして綺麗にし、ローランが難なく住めるくらいにはなったのだった。
「すまないな」
「いえいえ!」
実は、この時点でノエルはローランに一目ぼれしていたのだった。ローランを匿えば共に暮らせる。そしてずっと一緒に暮らしたいという欲がノエルの中で芽生え始めていたのである。
(ここなら王都からも遠いし、大丈夫なはず…)
夜。寝間着姿のノエルは自室からこっそり抜け出して、ローランのいる離れに向かった。
「失礼します。ノエルです」
「どうぞ」
小声でローランに挨拶を交わし、離れに入るノエル。その鼓動はドキドキと高鳴っていた。ローランは簡易ベッドの上に座り、ノエルが渡していた本を読んでいる。
「少しだけ、お話しませんか」
「良いよ」
「あの、王宮はどんな所だったんですか?」
「ああ、楽しかったけれど…」
ローラン曰く序列がそこまで高くないという事もあって、プレッシャーや圧力は無かったという。幼少期は家庭教師の先生方と仲良くしていたそうだ。しかし2年ほど前から国王反対派の勢力が強まり、今回起こったクーデターに繋がったのだという。
「王族の政治では無く、議員達の合議制による政治を彼らは推し進めていた…」
「そうだったんですか」
ノエルには政治と言った難しい事柄はあまり良く理解できないものではあるが、それでも彼の心情に寄り添おうと必死で理解しようとしていた。
「迷惑をかけてすまないな」
「いえ、いえ…!」
(むしろ、一緒にいたいし…!)
ノエルはええい、と勢いに任せてローランに抱き付いた。ノエルは勿論この行動が相手へ失礼にあたるとは理解していたが、それでも衝動は収まらなかった。
「ろ、ローラン様…!私と一緒に暮らしましょう」
「ノエル…」
「私がいますから、大丈夫ですっ…!」
ノエルは息を切らしながらそう全力をかけてローランに伝える。ローランはそんなノエルを見て、彼女の頭を優しくなでた。
「ありがとう。ノエル…」
「ローラン様…私、私は…」
「ふふっ…」
ローランの口元がふっと緩くなった。それまでまとっていた緊張感・不安感がようやく解きほぐされたかのようなそんな表情を見せたのだった。
ノエルはそんなローランを見てほっと一息ついたのである。
次の日。ローランはノエルらと一緒に朝食を取った。そしてノエルは取って来た貝をローランに見せた。ローランは物珍しそうに貝を見つめ、ノエルからの説明を熱心に聞いていた。
「あの、良かったらいつか貝取りに行きませんか?」
「ああ、ぜひ行きたい」
ノエルはローランの左腕にそっと抱きついたのだった。
「このまま一緒に、ゆっくりのんびり暮らしたい…ですね」
ここは浜辺にある農村の一角。磯へ続く小道を歩いている少女の名前はノエル。漁師の父親とその手伝いをしている母親の元でゆっくりと過ごしている。
この日もまた、日課の貝取りに磯まで訪れていたのだった。
「よいしょ…」
磯には貝がいくつか岸壁にしがみつくように生えている。それらをノエルはむしりとって籠の中に入れていく。
「こんなもんかなあ」
籠の中の3分の2ほどが埋まった所で、この日の貝取りを終わりにしようとしていたノエルだったが、そこである事に気づく。
「あれは…?」
ノエルから約20m離れた先に青年が横たわっているのが見える。高貴な見た目をしており、ノエルが急いで彼の元へと近寄るとうめき声が聞こえてくるのが分かる。
(まだ、生きてる…!)
「もし、もしもし!」
ノエルが彼の肩をぽんぽんと叩くと、彼はゆっくりと目を見開いた。
「こ、ここは…」
「ここはミルア村です」
「そうか…」
青年は安心したかのようにまた目を閉じたのだった。ノエルは自分だけでは青年を抱えて運べないと判断した為、近くの漁港まで走り、若い男を2人連れてくる。
「こりゃまあ…」
「もしかしたら王族の者かもしれん」
「こないだクーデターがあったって聞いたよなあ」
ここミルア村から王都までは大分離れており、徒歩だと2週間はかかる程の距離である。そして王都に住む王族内でいさかいがあり、王子王女らはちりぢりに逃げたという噂が村内に流れていたのだった。
ノエルは自身の家の離れまで青年を運び、母親と共に看病する。桶に入れた水と手拭いを持ってきた母親は青年の顔を改めてまじまじと見つめると、こうノエルに告げた。
「この方もしかしたら王族かもしれないわ」
「ほんとう?」
「ローラン様に似ていらっしゃるもの」
すると青年は痛がるそぶりを見せつつゆっくりベッドから起き上がる。
「大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ…やはり私の事はご存知でしたか」
青年は国王の第四王子ローランであると自身の正体を明かしたのだった。聞けばクーデターによりこちらまで逃れて来たものの嵐に会ったりしてここにたどり着くまでの記憶は一部ないという事だった。
「気を失っていたのもあるかもしれない」
「そうですか…して、これからどうするおつもりで?」
母親の問いに対して、ローランはうつむく。そんなノエルはローランをずっと見つめていた。ノエルの心臓はドキドキと熱く早く動いている。
(欲を言えば、一緒に暮らせたらなあ…)
「あの、一緒に暮らしませんか?」
つい、欲がノエルの口から割って出たのだった。ノエルの母親はそんな無茶な事が、とノエルをいさめようとするが、ローランはまんざらでもない様子で頷く。
「確かにその方が良いかもしれない」
「ですが、王子様がこのような狭い場所で…」
「いや、むしろその方が都合が良いと思う。ここまで追手はこないだろうし」
「確かにそうですね…」
「そうでしょ、お母さん!私もそれが良いと思ったの!」
と、最終的にはノエルのごり押しやローランの頼みもあって、なし崩し的にノエルの家族とローランの同居が決まったのだった。
ローランは家の離れを主な拠点にして暮らす事になった。離れは元は半ば倉庫扱いだったがノエルらが何とか掃除をして綺麗にし、ローランが難なく住めるくらいにはなったのだった。
「すまないな」
「いえいえ!」
実は、この時点でノエルはローランに一目ぼれしていたのだった。ローランを匿えば共に暮らせる。そしてずっと一緒に暮らしたいという欲がノエルの中で芽生え始めていたのである。
(ここなら王都からも遠いし、大丈夫なはず…)
夜。寝間着姿のノエルは自室からこっそり抜け出して、ローランのいる離れに向かった。
「失礼します。ノエルです」
「どうぞ」
小声でローランに挨拶を交わし、離れに入るノエル。その鼓動はドキドキと高鳴っていた。ローランは簡易ベッドの上に座り、ノエルが渡していた本を読んでいる。
「少しだけ、お話しませんか」
「良いよ」
「あの、王宮はどんな所だったんですか?」
「ああ、楽しかったけれど…」
ローラン曰く序列がそこまで高くないという事もあって、プレッシャーや圧力は無かったという。幼少期は家庭教師の先生方と仲良くしていたそうだ。しかし2年ほど前から国王反対派の勢力が強まり、今回起こったクーデターに繋がったのだという。
「王族の政治では無く、議員達の合議制による政治を彼らは推し進めていた…」
「そうだったんですか」
ノエルには政治と言った難しい事柄はあまり良く理解できないものではあるが、それでも彼の心情に寄り添おうと必死で理解しようとしていた。
「迷惑をかけてすまないな」
「いえ、いえ…!」
(むしろ、一緒にいたいし…!)
ノエルはええい、と勢いに任せてローランに抱き付いた。ノエルは勿論この行動が相手へ失礼にあたるとは理解していたが、それでも衝動は収まらなかった。
「ろ、ローラン様…!私と一緒に暮らしましょう」
「ノエル…」
「私がいますから、大丈夫ですっ…!」
ノエルは息を切らしながらそう全力をかけてローランに伝える。ローランはそんなノエルを見て、彼女の頭を優しくなでた。
「ありがとう。ノエル…」
「ローラン様…私、私は…」
「ふふっ…」
ローランの口元がふっと緩くなった。それまでまとっていた緊張感・不安感がようやく解きほぐされたかのようなそんな表情を見せたのだった。
ノエルはそんなローランを見てほっと一息ついたのである。
次の日。ローランはノエルらと一緒に朝食を取った。そしてノエルは取って来た貝をローランに見せた。ローランは物珍しそうに貝を見つめ、ノエルからの説明を熱心に聞いていた。
「あの、良かったらいつか貝取りに行きませんか?」
「ああ、ぜひ行きたい」
ノエルはローランの左腕にそっと抱きついたのだった。
「このまま一緒に、ゆっくりのんびり暮らしたい…ですね」