初恋は嘘つきだった
4話


 〇理央宅・キッチン・休日(早朝)

 花屋の朝は早い。花市場にいって仕入れをしなければならない両親は、理央が起きたころにはもういないのが日常だ。

 キッチンに立ち、慣れた手つきで料理をする理央。
 朝ごはんを作っている。

 遅れて大志が起床する。
 大志、仕事が休み。少し寝ぼけ眼でゆっくり歩いてくる。

大志「おはよー」
理央「おはようございます」
大志「朝早いな」
理央「うちは、両親が早朝から仕事でいないので、朝ご飯の係は私なんです」
大志「へえー。偉いな」

 大志、理央の隣にくる。理央、料理に集中して気づいていない。
 いつの間にか隣にいる大志にビクッとする理央。
 料理をする理央に感心しながら、寝ぼけ眼でぼーっとしてる大志。
 
 大志、寝癖がついている。寝癖に視線を向ける理央。

理央(寝癖ついてる。いつも完璧な大志くんしか見てなかったから……なんか、かわいい)
理央「ふふっ、」

 
 大志のギャップが微笑ましくて、笑い声が漏れる理央。

大志「ん? なんで笑ってるの?」
理央「な、なんでもないです! 私にとっては朝ごはん作るのが日常なので……」
大志「理央がずっと作ってたの?……姉ちゃんは?」
理央「あー。お姉ちゃんは……」

 
 〇(回想) 過去 理央自宅・キッチン

 自宅キッチンで料理をしていた千尋。

千尋「うわーん。理央-! やっぱり私だめだ。料理とか苦手だー」

 千尋はフライパンを持ちながら半泣きで理央にすがる。千尋が手にもつフライパンには、得体のしれない真っ黒に焦げたものが張り付いている。

理央「お姉ちゃんは料理苦手だもんね。いいよ。朝ごはんは私が担当するから」
千尋「理央の方がお姉ちゃんみたいー! ありがとう! かわいい妹ちゃん!」

 そう言って理央に抱き着く千尋。
 千尋は素直で甘え上手。理央はそんな千尋が憎めず、ずっと羨ましく思っていた。
 (回想終了)
 
 
 〇元の理央宅・リビング(朝)

理央「……料理は私が担当って決めたから」
大志「ふーん。でも、そのおかげで俺は理央の手料理が食べられるってわけだ」

 嬉しそうに笑う大志。
 大志の発言にドキドキしながらも、平然を装いテーブルに作った朝食を並べる理央。


大志「いただきまーす」
理央「……いただきます」

 大志と朝食を食べることを不思議に感じながらも、心が温かくなる理央。
 理央、いつも朝食は一人で食べていたので、誰かと食べる朝食は久しぶりだった。

理央(誰かと朝食を食べるのって久しぶりだ。いつも一人だったから)

 姉・千尋は塾講師と花屋のアルバイトの兼業。
 花屋のアルバイトは朝早く、塾講師の仕事は夜遅くまでさ働くため、朝起きてくるのが遅かった。
 必然的に一人で朝食を食べていた理央。

大志「これからは毎日一緒に食べようか」
 
 理央の心を見透かされたように、言い放たれた言葉に、どきっとする理央。

理央「そ、卒業までなら、作ります!」
大志「俺はおじいちゃんになるまで、作ってほしいなー」
 

 理央(おじいちゃんになるまでって。それってまるで……)

 プロポーズともとれる言葉に動揺する理央。


大志「理央、今日予定ある?」
理央「特にないですけど……」
大志「デートしよ?」

 柔らかい笑顔を浮かべる大志。
理央(大志くんと……デート?!)
 

 〇車内(移動・昼)

 デートに行くことになった二人。
 大志の運転で移動している。
 
理央「どこに向かっているんですか?」
大志「つくまでの秘密ー♪ 寝てていいよ? 今日も早起きだったでしょ? 洗濯物回したり、家の掃除してくれたり。疲れたでしょ?」

理央(……見ててくれたんだ)

 両親は休日関係なく仕事だ。平日よりも世間が休みの日の方が忙しい。
 忙しい両親の代わりに、家族の洗濯物、家の掃除を朝からこなしていた理央。

 車内のわずかな揺れが心地よくていつの間にかうたた寝していた理央。
 理央が寝ている間に目的地へと到着する。
 
 
 〇結婚式場・クオンホールディングスが手掛ける式場

 緑豊かなガーデンが開放的な雰囲気。
 白を基調とした数ヶ月後にOPEN予定の式場。外観は完成されているが、内装がところどころ未完成。

大志「ここは来年OPENする予定の式場なんだ」
理央「すごい……綺麗、」
大志「最近完成された場所があって、理央に見て欲しいんだ。一番最初のお客さまです」

 自然と理央の手を引く大志。
 手を繋がれ、どきっとする理央。



 〇結婚式場内・チャペル

 白を基調とした、ガラス張りの窓から入り込む光に包まれたチャペル。天井7mで開放的。
 初めて見たチャペルに感動する理央、目を輝かせる。

理央「わー! 実際に見るの初めてだっ!」


 目を輝かせて自然と高らかな声が出る理央。

大志「ここがバージンロードだよ? 歩いてみる?」
理央「い、いいの?」
大志「本当はダメだけど、理央は特別にいいよ?」

 ドキドキしながらゆっくり歩く理央。
 大志と理央、並んで歩く。

理央(ここがバージンロードかあ、凄い!ドキドキしちゃう)


大志「花嫁様の好きな花たちを選んでもらって、このバージンロードをフラワーバージンロードにする予定なんだ」
理央「フラワーバージンロード?」
大志「うん。青色が好きなら青色の花。花嫁様が好きな花があればその花を。ここを花たちで可憐に埋め尽くして……そんなバージンロードどうかな?」

 説明に力が入る大志。
 仕事に一生懸命取り込んでいることがわかるコマ。

理央(大志くんの目が輝いてる……仕事の話だとこんな顔するんだ……)

大志「……変かな?」

 口を開かない理央に不安になる大志。

理央「すっごく素敵だと思う!」

理央(花たちで綺麗に飾ることができたら絶対に素敵!)

 頭の中で想像して興奮する理央。目を輝かせている。
 目を輝かせる理央を見て、少し照れる大志。

 
大志「固まってたからダメなのかと思ったー」
理央「そ、それは……大志くん、仕事のことになると目の色が変わったから……」
大志「俺、真面目だよ? 仕事大事だもん」
理央「なんか……意外です」
大志「ははっ。意外なのかよ。仕事も大切だけど……。仕事よりも理央のこと大切にするよ?」

 真っ直ぐな視線を向ける大志。
 言葉と視線にどきっとする理央。

 大志、頬を染める理央を優しい眼差しで見つめる。
 バージンロードを歩いて、祭壇へと辿り着く。

大志「ここは誓いの言葉と、誓いのキスをする場所だね」

 理央(ここが……。ドラマとかでよく見た場所だ)


祭壇の前に立ち、さらにドキドキする理央。
 そんな理央の手を取る大志。

  
大志「俺と結婚してください」

 手を取り真剣な瞳で見つめる大志。
 まるで本当のプロポーズのような。

 チャペル全体も映る理央と大志、引きの絵。

理央(け、け、結婚?!)

 
大志「なーんてね。みんなここで誓いの言葉を言うんだよ」
 真剣な表情から一変、へらりと笑う大志。
 
理央(……びっくりしたー)

大志「びっくりした?」
理央「……う、嘘でもこういうのは照れちゃいます」

 頬を赤く染めて照れる理央。
 理央の様子を見て大志も照れる。
 
大志「……まあ、将来的に? またここに理央ときたいと思っているけどな?」

 照れて赤くなったのを隠すようにそっぽを向く大志。

 
理央「それって……」

理央(大志くんといると、嬉しくなったり、胸がキュッとしたり、感情が忙しくなる)
 大志と過ごしたシーンの絵。

理央(今だって、こんなに心臓がどきどきしている)
 
 大志を見つめる理央。

理央(いつだって大志くんの言葉は、私の心のど真ん中に突き刺さる)
 
 優しい笑顔の大志、アップ絵。

理央(わからない。まだわからないけど――)


理央「……私も、そうなったらいいなって。思っている自分が……いる、かも……しれない」

 言葉がとぎれとぎれになる理央。

 × × ×
 <フラッシュバック>
 千尋「好きな人の言葉は、嬉しかったり。胸が苦しくなったり。感情が忙しくなるんだよ? 苦しい時もあるけど、すっごい幸せを感じるのは、やっぱり好きな人の言葉なの!」
 嬉しそうに好きな人のことを話す千尋アップ絵。
 × × ×

理央(私にも恋ができるのかな? お姉ちゃんみたいに幸せそうに笑える日が来るのかな)

理央(この気持ちの正体がまだわからないけど――)

 返事よりも先に、ぎゅっと抱きしめられる理央。

大志「ごめん。今、嬉しくて顔赤い……」

 抱きしめながら呟く大志。
 理央の背中と大志の絵。大志の頬は赤く染まっている。

理央「……」
  
 抱きしめる力を弱めて体を話す大志。

大志「仮の婚約でいいと思ってた。……けど、欲が出てきた」
理央「よ、欲?」
大志「俺のこと好きになって?」

理央(まただ。大志くんの言葉で心があたたかくなる)

理央「……まだ自分の気持ちが分からなくて。……その、ゆっくりでいいなら。待っていてくれますか?」
大志「……」
 
 無言の大志。
理央(変なこと言っちゃったかな?)

 言葉を発しない大志に焦る理央。

大志「……嬉しい」
理央「……」
大志「俺、思っていた何倍も、理央のこと好きみたい」


 チャペルを背景に見つめあう理央と大志。


理央(嬉しいはずなのに。お姉ちゃんの婚約者だったという事実が、私の胸の中で消えてくれないんだ)
 
理央(今日言ってくれた言葉は大人だから簡単に言えるのかな? 本音だったらいいのにって思ってしまう私は、やっぱりまだ子供なのかな……)
 
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