初恋は嘘つきだった
5話


〇車内・迎えの車・放課後(夕方)

 迎えの車に座り窓の外を眺める理央。
 大志、不在。
 代わりに迎えにきたのは、大志担当の運転手。

 モノローグ・理央の心・状況説明
 (あれから大志くんは放課後に迎えに来てくれるようになった。仕事を無理に抜け出しているらしい。毎日はさすがに無理なので、こうして大志くんの会社の運転手さんが迎えに来てくれることも多い)


 〇(回想)過去・大志と理央の会話

理央「大丈夫ですよ! 迎えに高級車がくる子なんていないし」
大志「俺が迎えに行くには理由がある。まず、理央の身の安全。次に、理央の身の安全(変な男が寄ってこないように)」
理央「どっちも身の安全じゃん……」

大志(男が寄ってこないようにっていう身の安全は……束縛激しいって嫌われたくないから黙っておこう)

 (回想終了)

 ◯元の車内・迎えの車

理央「すみません。運転手さん、私のお迎えまでしていただいて……」
運転手「いえいえ。大志坊ちゃんのお願いですから」
理央「坊ちゃん……」
運転手「失礼しました。大志さんが子供のころから運転手を務めているもので……」

 ははっと笑いながら話す運転手。
 運転手、穏やかな話し方で気さくに話してくれる。

 運転手はクオンホールディングスに勤めている運転手。
 大志の担当をしている。 
 
 
運転手「ふふっ」
理央「どうしました?」

 含み笑いをする運転手を不思議に思いながら、問いかける理央。

運転手「いや、ごめんなさい。坊ちゃんに愛されてるなあと思って」
理央「え、いや……」
運転手「坊ちゃんが女性にこんなに過保護になるのは、はじめてですよ? あ、これ内密にしてくださいね?」
理央「は、はい」

理央(過保護って……)

 運転手の言葉に嬉しくなり、隠そうとしても、口角が上がる理央。

運転手「それに、以前から北條家のお嬢さんの話は聞いていましたので。だからこうして、坊ちゃんの恋が実って感情深いのですよ」

 運転手の言葉に固まる理央。
理央(以前から?……北條家のお嬢さん?)

 運転手の話にどこか違和感を感じる理央。
 
理央(以前から相談を受けていた?)
 
 
理央「あの、大志くんから相談を受けていたのって、いつごろからですか?」
運転手「うーん。いつごろだったかなあ? 確か……半年前くらいだったかな?」

 運転手の言葉を聞いてショックを受ける理央。表情が固まる。

 理央(半年前って。私は大志くんと出会っていない……)

 理央、嫌な予感が走る。どくどくと心臓が嫌な音を立てて鳴りだす。


理央「……どんな相談受けていたのか聞いてもいいですか?」

 真実を知りたい理央、動揺を隠して微笑の仮面を張り付け運転手に問いかける。
 笑顔はどこかぎこちない。

運転手「えー。坊ちゃんには絶対に内緒ですよ?」
理央「もちろんです……」
運転手「結婚式場に配達にきた北條家のお嬢さんに一目ぼれをしたそうですよ? これは聞いてますかね?」
理央「……そう、なんですか」

 絞り出す声が小さくなる理央。
 目に涙が一気に溜まっていく。

理央(結婚式場に配達はきっとお姉ちゃんだ。私はたまにしか手伝いしていない。それに、大志くんと出会った記憶がない)

理央(お姉ちゃんと大志くんは、ただの政略結婚かと思ってたのに。そこに意志はないと思ってた。だけど……大志くんの意思だった? お姉ちゃんに一目惚れをしたから政略結婚を持ち掛けた。おかしいと思った。大志くんの家柄と、私の家柄ではお見合いするのに釣り合わないもん……)

理央(なんだ。私に興味持ったふりをして、お姉ちゃんのこと諦めきれないだけじゃん。今まで私に言ってくれた言葉も全部……嘘ってこと?)

 胸が苦しくなる理央。
 涙を必死にこらえている。



 〇理央宅(夕方)

 
 大志、仕事でまだ帰宅していない。
 運転手の話が頭から離れない理央。ふらふらと家の中を歩く。

理央母「おかえりー。あれ? どうした? 泣きそうな顔して」

 お母さんに指摘されて、泣きそうになっている自分に気づく理央。

理央(大志くんがお姉ちゃんを好きだという事実を聞いてから、ずっと胸が痛い……)

理央「う、うん。ちょっと体調が悪いのかも」
理央母「あら、風邪かしら? 部屋で休んでなさい?」
理央「う、うん。そうする。あ、大志くんが返ってきたら風邪ひいているからって伝えてくれる? 風邪移すと大変だし」
理央母「そうね。伝えとくね」

理央(お母さんに体調が悪いと嘘をつくのは、良心が痛むけど。これで大志くんと顔を合わせずに済む)

 ほっと安心する理央。


 〇理央自室(夜)

理央「……」

 ベッドに寝頃がり天井を見つめる理央。
 考えるのは、大志のことだった。

理央(大志くんはお姉ちゃんが好きで……お姉ちゃんがいなくなったから。仕方なく私を選んだ? それより、私と婚約して、お姉ちゃんとの繋がりを持としている?……どちらにせよ、私は使われたってことだ)

理央「ははっ、そうだよね。大志くんが私なんて好きになるはずないのに。何勘違いしているんだろう」

理央(好きとか、チャペルで言ったことも、全部嘘……何真に受けて喜んでいるんだろう。ばかみたい)

 
 ――コンコン。
 理央の自室のドアがノックされる。

大志「理央? 体調悪いんだって?」
理央「……」
大志「入っていい?」
理央「だ、だめ!」

 思わず大きな声で荒げる理央。
 大志、初めて聞いた理央の反応に少し驚く。

大志「……わかった。部屋には入らない」
理央「……」
大志「理央、あのさ。風邪が治ったら、理央が行きたいところにデート行かないか? やっぱり遊園地とかか? 絶叫系とか乗れないけど。理央が行きたいっていうなら……特訓してから挑むよ?」

理央(本当はお姉ちゃんのことが好きなくせに。なんでそんなこと言うんだろう)

 嬉しいはずの言葉なのに、胸が苦しくなる理央。手のひらで胸元をぎゅっと抑える。

大志「なにかあったなら、言ってな? 俺はいつでも理央の味方でいたいから……風邪も俺に移してくれていいから」
理央(なんでこんなときでも、優しいの?)

 理央、涙を瞳に潤ませる。

理央(恋をすると、こんなに胸が痛いんだ。知らなかった)
理央(恋をすると、こんなにモヤモヤするものなんだ。知らなかった)



大志「理央? 部屋に戻るから、何かあればすぐに言ってな? 飛んでくるから」
 
理央(もう、分かってしまった。私、恋しちゃったんだ……)

理央「た、大志くんっ!」

 自室のドアを開けて大志と向き合う理央。
 理央の勢いに、驚く大志。


理央「あ、あのね!」

理央(ちゃんと大志くん本人に確認しよう。そして、私の気持ちも伝えよう――)
 気持ちを伝えようと口を開けた理央。
 違うものの声によって遮られる。
 
千尋「ただいまー!」

 玄関から千尋の声が聞こえてくる。
 理央が言葉を発する前に、千尋の声が遮断をする。
 
 
理央「え、この声お姉ちゃん?!」
 
 驚く理央。
 聞き覚えのある声に慌ててドアを開けて玄関へと向かう。



〇理央宅・玄関

 玄関にはキャリーケースを持った千尋の姿が。
 千尋の顔を見て、驚いた表情をして声を上げる。
 
理央「お姉ちゃん?!」
理央母「千尋?!」
大志「……」

千尋「彼氏とだめになっちゃった! 華麗に出戻りしました! あ、あれ? 大志さん? なんでうちに……?」
大志「……」

 驚いたような、気まずそうな表情を浮かべる大志。
 そんな大志を不安げに見つめる理央。


理央(あんなに大好きだったお姉ちゃんが帰ってきたのに。なんでだろう。うまく喜べない)

理央(なんでこんなに胸が苦しいの……)

 ぎゅっと胸元を抑える理央。

 
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