528ヘルツの大好き
「まぐれで予選通過おめでとう。僕はキミと違って実力で通ったけど」
「はあ……」
ねっとりとした話し方で、見下すような視線を向けてくる。なんだか気持ち悪いな。
「あと、キミ。朗読をSNSに投稿してるんだって? どうせリスナーなんて付いてないだろう。ムダだから辞めたら? まだ中学生だから分からないかもしれないけど、キミみたいな声の人はその辺に結構いるんだよ。だからちょっと変わってるだけで平凡なんだ。僕みたいに選ばれた声優にはなれないから、早く諦めた方がいい」
延々と続くお兄さんのダメ出し。
なんで……なんでこんな事言われるんだろう。剛里さんのお兄さんなんて、今日初めて会ったのに。それに私は、声優なんて目指してない。
悔しいし悲しい……それに、やっぱり自分の声がダメだからなんだって思ってしまって、何も言い返せない。
「おい! いい加減にしろ!」
「な、な、な、なんだよ、お前。あ、あれだ、お前も中学生だろう? 年上にそんな口きいていいのかな。そ、そ、それに付き添いなんだろ。暴力なんてしたら彼女は失格だぞ!」
朔間くんが何も言わない私に業を煮やしたのか、お兄さんに言い返してくれたけど。殴りかかりそうな勢いだったのに、それ以上は何もしなかった。これからステージに立つ私の身を案じてくれたんだ。