528ヘルツの大好き
 やっぱり、やっぱりこんな所に私なんかが来ちゃいけなかったんだ。お兄さんの言った通り、まぐれで予選通っちゃったから、のこのこ来てしまったけど。自信なんて無いし場違い。

 せっかく朔間くんに協力してもらってここまで来たけど、辞退して帰った方がいいのかもしれない……

「貴方は、声優になりたいの?」

 不意に、さっき助けてくれたおじさんが私にそう言った。私は顔も上げずに頭を振った。

「そうか……でも、そうだな、貴方は声優よりナレーションや朗読をやったほうがいい」

「え……?」

 意外な言葉に驚いて顔を揚げると、おじさんは優しい表情でこちらを見ていた。

「印象的で耳にスッと入ってくるその声。とても素敵だと思いますよ。声を使う仕事を将来してもしなくても、きっと貴方の財産になる」

「財産……?」

「まだ中学生だ。いろいろな事に挑戦して、頑張ってください」

 なんだろう、このおじさん……励まして、くれたのかな……?

 私がポカンとしているうちにおじさんは、呼びに来た誰かと一緒に控室を出ていってしまった。

 自分の声が大嫌いだけれど、それはいつか大好きになるの? 財産になる、ってそういう事?

 よく分からなかったけど、おじさんの言葉は私の心にポツリと残った。





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