528ヘルツの大好き
 名前を呼ばれて、足から崩れ落ちそうなくらい緊張がはしった。舞台袖から見えるステージは、ライトに照らされキラキラして見える。

 今から私はそこへ行くんだ……

 朔間くんから貰った勇気を握りしめて、私はステージへ進んだ。

 するとそこで思わぬ事が起こったんだ。

 観覧席の最前列はこのコンテストの関係者が座っている。朗読を審査してくれる審査員数名が中央付近の席だ。

 その中に、控え室のあのおじさんがいた。

 胸に『審査委員長』って札が付いてる。

 今回の審査委員長は、ベテラン声優さんだって聞いている。でもテレビとかに顔出ししないって有名な……

 あのおじさんがその声優さんだったの?!

 通りで……控え室であまり話してなかったのに、私の声を知っていたのが少し不思議だった。きっと予選に送った朗読の音声を聞いていたんだ。

 おじさんは私と目が合うと、おどけたようにペロリと舌を出した。

 その様子に、私の緊張とこわばりがスルスルと溶けてゆく。

 私の周りには、こんなに応援してくれる人がいる。なのに自分が頑張らなくてどうする!

 大きく息を吸って吐く。

 そして私は、最初の一語(いちご)を声に出した。






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