王は断罪し、彼女は冤罪に嗤う
 悲しさを通り越して乾いた笑いがこぼれた。
 この場でどう処遇を告げようと、後日毒杯を与えるか食事に毒を混ぜるかするだろうことは察せられる。でなければ、閉じ込めたまま仕事だけをこなす奴隷扱いか。
 寛大とは何だ。国王とはどういうものなのだ。初めて疑問が湧いて、しかしもうどうにもなりはしない。

「罪が露見して気でも触れたか」

 歪んだ笑みを浮かべるライサに吐き捨てたエフレムは、

「ナタリア」

 と誰も知らない名前を口にし、ライサに見せつけるかのように、観衆に知らしめるかのように、どこからか現れた娘を傍らに呼び寄せ目を細める。
 エフレムのその顔を、ライサはよく知っていた。過去自分に向け、その後あちこちに振り撒いていた表情だ。

 簡素なワンピースを纏ったナタリアと呼ばれた彼女は、愛らしい顔立ちに、体格は小さく、上位貴族ではなかなか見ない深い栗色の髪を、それも肩の上で切り揃えている。それもあってかまだ少女と言い表すに相応しく、彼のどの子供たちよりもずっと年若く見えた。

「ライサ・マロスを排し空席になる王妃の座を、ナタリア、彼女に与える」

 そう宣言したエフレムは、ナタリアの小さな手を掬い上げる。愛おしげにその甲を撫で、熱い眼差しで口を開く。

「ナタリア、幸せにする。余の花嫁となってくれるな?」

 当然の決定事項のごとく、形ばかりの問いかけ。
 今にも誓いの口付けをしかねないほど顔の近づくエフレムに、ナタリアは一歩、もう一歩、距離を取った。

「お断りします」

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