王は断罪し、彼女は冤罪に嗤う
「随分と愉快な冗談をおっしゃいますのね、陛下。街歩きの最中に一目お目にかかっただけですのに、どこに愛の芽生える時間がございますの? たとえば出会いから幾度となく逢い引きを重ねていたなどであれば、真実かはともかく、愛なのか情なのかは湧くのかもしれませんけれど」
ちら、とその目が向けられた気がして、ライサは身体を強ばらせる。
「貧しくも家族仲良く暮らしていたところを、陛下がお召だからと突然親元から引き離された平民の子供が、どうして好意を抱くとお思いなのでしょう。貧乏な小娘なら、綺麗なドレスや宝石、甘いものを与えておけば簡単に心や身体を開くとでもお考えになられたのかしら」
たおやかに口元に手を当てて笑う表情は、しっかりとした物言いは、どう見たところで本人の口にした平民の子供のものではない。
「豊かな、食べるに困らない暮らしは確かに魅力的です。だからといって、誰しもがそれを望むとは限りませんわ。少なくとも私は、どれだけ生活が苦しかろうとも家族と一緒でないと幸せとは感じません」
真実の愛、ですって。
味わうように繰り返して呟き笑うナタリアの、藍色の瞳は冴え冴えとしていた。
「お好きですわね、真実の愛」
まるであの日の断罪劇を見てきたかの様子。しかし年齢的にも身分的にもそんなことがあったとも知らないはずだというのに。