王は断罪し、彼女は冤罪に嗤う
 目を細めたナタリアに、エフレムの赤紫の瞳が苛烈な光を宿す。

「あら怖い。――また、殺すのですか?」

 あどけないほどの、まっすぐな問い。
 さすがにざわめきが起きる。声を上げる者はいないが、低く小さく何事かを囁き噂する気配が広がっていく。

 公爵令嬢に死を宣告したあの日、そして今日。二十余年が経過したとはいえ、招待客は当然重なっている。あれが正しい行いであったかどうか、口にせずとも疑問に思う者もいただろう。

 王族は絶対だ。逆らう者などこの国にはいない、……はずだった。だからといって家族を、友人を、自身を、王族のために命まで捧げるという行為を、本心からすべて受け入れているかというと、それは否と言わざるを得ない。

「綺麗な瞳ですけれど、どうしてかしら、私にはそれ、効かないみたいですわ」
「なっ!?」
「あの頃もこう出来ればよかったのに」

 詰め寄る体勢だったエフレムの腕を掴み、にこやかに睨み上げるナタリア。その瞳がゆるやかに輝く。深く、澄んだ、

「紫の瞳……!」

 驚愕の声。先ほどは藍色ではなかったかと、口々に上がる。誰より間近で目撃したエフレムが動揺を見せる。
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