頬を染めるのは、イルミネーションのせいだけではないのです
翌日の放課後。未だに信じられない気持ちで図書室へと向かった。
今日は、図書委員の当番の日だ。昨日ぶりに冬月くんと顔を合わせるのだけれど、なんだかいつにもまして緊張する。クリスマスの日の話題、出るかな。
そうそわそわとした気持ちで図書室に到着すると、返却BOXにはたくさんの本が返却されていた。授業で使ったのか、どこかの部活動が借りていた本なのか、分厚い図鑑のような本が多かった。
私はそれを廊下に備え付けられている返却BOXから取り出し、カウンターへと何度か往復して持って行った。
いつものように返却手続きをし、手続きの終わった本たちを本棚に戻していく。
そうこうしているうちに冬月くんがやってきた。
「お疲れ様、遅くなってごめん」
「お、お疲れ様です」
いつも以上に緊張しながら、あまり冬月くんを意識しすぎないよう、当番の業務に勤しむ。
「重い本は俺が棚に片付けておくよ」
と冬月くんが申し出てくれる。
「お、お願いします…」
彼の顔はあまり見られないまま、私はそそくさと次の仕事に取り掛かる。新着図書が入ってきたので、バーコードの準備等も進めなくてはならない。
なんだか今日に限って当番の仕事が忙しい気がする。
そんな風にばたばた過ごして、仕事が片付く頃には、もう閉館時間まで残り三十分を切っていた。
ようやく一息つきつつ、カウンター内の椅子に腰を下ろす。
同じように仕事を終えた冬月くんも、カウンター内に入ってきた。
あとは時たま来る貸し出し手続きや、返却手続きをぽつぽつ行うだけだ。その間時間があるので、私はいつもカウンター内で本を読んだり、おすすめの本のポップを作ったりして過ごしている。冬月くんは本を読んでいることが多いかもしれない。サッカー部なので、元サッカー選手の方が書かれた本とか、たまに心霊雑誌とか、お腹が空いているのか、お菓子作りの本をぱらぱら見ていることもある。
今日は何を読んでいるのかな、と思って、私は集中して書いていたポップの手を止めて、こっそり冬月くんの手元を見る。
しかしそこにはなんの本もなく、あれ?と思って顔を上げてしまった。
するとばっちり彼と目が合ってしまう。私は慌てて視線を書いていたポップへと戻す。
今日は何も読んでいなかった。じゃあ今まで何を見ていたのだろうか。ぼーっとしていた?もちろん時にはぼーっとする時間も必要だよね。私が書いているポップを見ていた、とかだったら少し恥ずかしいな。そこまでデザインセンスもないし、字が綺麗なわけでもないし…。
そんなことをぐるぐると考えていると、冬月くんが口を開いた。
「白雪さん、今日全然目合わせてくれないよね」
「え?」
「もしかして昨日、クリスマスに遊ぼう、って誘ったの迷惑だった?」
「そんなこと、」
「白雪さん優しいから、もしかして断りづらかったんじゃないかって。無理にIDも交換しちゃったかな、って、家帰ってちょっと反省した」
「そんなことないです!」
思わず出てしまった大きな声に、私ははっとして口をつぐむ。幸いなことに、図書室には私達二人以外はいないようだった。
「あの、すみません。私、昨日誘ってもらったことが嬉しくて、でもどうやってその話題を切り出したらいいのかなって、迷ってしまって。もしかしたら、冬月くんも冗談だったのかもしれないし」
「冗談なんかじゃないよ、白雪さんだから誘ったんだ」
嬉しすぎて、言葉が出なくなってしまう。本当に、私なんかとクリスマスを過ごしてくれるつもりなんだ。
間の悪いことに、閉館時間を告げるチャイムが鳴ってしまう。
冬月くんが立ち上がりながら言う。
「戸締りして、出ようか」
「はい」