異世界騎士の忠誠恋
それから、服と下着の違いをフリード王子からしっかり叩き込まれた。
「ハロルド。下着姿で、カノンちゃんの前をうろつかない!!」
「王子? 今、なんと?」
「下着姿で」
「いえ、女神様のことを……」
「んっ? カノンちゃんだけど」
愕然とした表情で、フリードを見るとワナワナと身体を震わせる。イヤな予感がした。
「っ……王子ともあろう方が!! 女神様を!! そのようにお呼びするとはっ!!」
「はっ?!」
「女神様に、慈悲の女神様に!! あぁ、なんてお詫びすれば!!」
寝室から、男の嘆きが聞こえた。
心配になった2人は、部屋に入ると服に着替えたハロルドが歌音の前に跪いて謝りだした。謝っているのは、先ほどの下着のことを言った後からフリードが言った発言を延々と謝っている。
後ろのフリードはかぶりをふって、「おてあげ」という状態。綾音は頭を抱えだした。この男に、今、何を言っても聞く耳は持たないだろう。
「ハロルドさん? 私は、フリードさんに歌音ちゃんと呼んで貰って大丈夫だから」
「なんとっ?! お心の広く……」
「ハロルドさんも、そう呼んで」
「いけません!! 女神様のお名前をそのように軽々しく口にするのは!!」
ハロルドは、こうと想い決めると譲らない。この男の悪い癖だと、フリードは思った。
翌日からは、歌音は仕事だった。いつも通りに、いつもの電車に乗っているのだが……。
目の前の大男が、今日は満員電車で周りの男性を睨みつけるような瞳でいる。ぎゅうぎゅう詰めの中で、彼が歌音が押しつぶされぬようにしてくれているのはいいが……。列車がカーブで曲がっても、ビクともしていない。とてつもない体幹というか、足の踏ん張りに力。
周りの乗客の方が、驚いている。
いつも降りている会社近くに降りる時は、恥ずかしすぎた。お姫様抱っこをされての下車。
周りの痛い視線。彼が、自動改札を初めて見て出られないので駅員のいる改札口から出た。
「ハロルドさん……会社の中には入れないから。あの、さっきの駅員さんのいる改札口から」
「いけません!! 女神様を残して帰るなど!!」
「えっ、あの」
「女神様を護衛するのも、騎士として忠誠を誓った俺の仕事です!!」
大きな声を張り上げて言うハロルド。女神様の護衛が出来る喜びを言い始めた。
会社の周りを通る人たちが、こちらを見ながら「えっ、何かの撮影?」「なに言ってんの?」「女神様?」と言ったりしている。
彼の大きな手をとり、会社の近くから離れる。彼は女神様に手を握って貰えている喜びが勝っていた。
「ハロルドさん、お願いだから。その、女神様っていうのを」
「いけません!! 女神様を女神様とお呼びせずして、どうすれば良いのですか?」
「だ、だから……私は歌音って。藤井歌音って、名前があるから」
「王子のように軽々しく、女神様の御名を呼べません!!」
困り果てた歌音は、彼に、「お昼ご飯の時間にまた来るから、ここに居てください!!」と言って会社に向かった。
ーー女神様は、何故あのようなことを言うのだ? ーー
ハロルドは、昼の時間まで必死に考えを巡らせた。王子と討伐などに出た時は、【策士】としても活躍していたが。
いっこうに良い考えも、何も浮かばない。
ーー女神様に巡り逢えただけでないのか? きっと、これは女神様に俺が忠誠を誓えているか、試されているのだ!! ーー
そして、ハロルドの暴走は悪化の一途へと向かう。
昼休みにハロルドと朝別れた場所へと向かった。
小さい公園のベンチで、歌音の言われた通り待ち続けていた。大きな忠犬のように見えた。
「ハロルドさん」
「女神さま!! 分かりました!!」
「? あの、ご飯、食べてからでも……」
「あぁ、申し訳ありせん」
歌音が家で用意してきた、彼女の弁当を貰い受ける。彼女は、ハロルドに自分の弁当を渡したので、会社の近くのコンビニで買ったおにぎりとおかずを食べる。
彼が家で食べていた量を考え、コンビニ弁当を1つ買って渡した。頬張って食べている姿は、美味しく食べているので嬉しくなる。姉・綾音だけと食べるようになって、料理は上達するいっぽうだった。誰か男の人が、こうやって「おいしい」と言って、美味しく食べている顔を見るのは久し振りだった。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま」
ハロルドは女神様を見習い、食事の前と後に挨拶を覚えた。
「あの、ハロルドさん……今日は、会社に来たけど。明日から来なくても大丈夫だから」
「しかし……あの様な箱の、大勢の人の中で。女神様に何かあっては……俺は……女神様をどう護れば良いのですか?」
「だったら、その、女神様と呼ぶのをやめて欲しいの」
最後は消え入りそうな声で言った。
ーー女神様はなんと? 呼ばない? どういう…… ーー
ハロルドは思考が停止したように、呆然としていた。
女神様は俺の護衛をいらない、と言うのか? そう、解釈を始めた。
「ハロルドさん? あの、私は……」
「女神様!! どうか、どうか!! 騎士として、お傍にいることは、傍で仕えさせて頂くことだけは!!」
ハロルドは彼女の両手を手にとり、「お願いです!! 女神様!!」と懇願してくる。
その懇願している男の瞳は、ひとりの女性に愛を受け入れてくれ!! と言っているように熱い眼差しでいる。
ドクッ、ドクン……
女性の瞳に魅入られて、心臓の早鐘がとまらない。呼吸が乱れ始めた。
いつの間にやら、ハロルドは女性、カノンを抱きしめている。柔らかくて、小さくて、花の匂いの護るべき女神様を……。
「女神様……俺は……」
男の瞳に、彼女の小さく紅くふっくらとしたものが入り込む。この紅く小さな……。
グッッ!!
ドサッ!!
ハロルドは尻もちをついた。目の前の、先ほどまで抱きしめていたカノンが、立ち上がり彼を見ると足早に立ち去った。
「えっ、女神様? 俺は、なにを? 」
手と身体、鼻くうには、カノンを感じた感触などがはっきりと刻みこまれていた。
帰り道、女神様の少し後ろをついて歩く。彼女のあの時の感触が刻み込まれた男は、必死に頭から忘れようとしていた。しかし、後ろ姿から想像してしまう。
あの時、感じた温かさを……。
ドクドクと全身に血が巡る。剣を握って、相手を倒す時の血の巡りの感覚とは全く違う。初めて感じる。
気が付くと、既に部屋に着いていた。
「ただいま」
「……っ……」
久し振りに女神様の声を聴いて、身体が、心がざわめき始める。
「た、ただいま」
ハロルドは、小さな声で言うと。「おかえりなさい」と柔らかい優しい声が返ってきた。女神様の声だとわかった。
彼は、ここが戻る場所だと何となく感じた。
その夜、彼は新しい仕事を女神様から仰せつかった。
留守番。
ハロルドは、護衛の代わりに新しい仕事を貰えたことを喜ぶ。彼女の傍に仕え続けられることを。
ただ、歌音だけは。彼に言いたいことを飲み込んで、夜を過ごした。
「ハロルド。下着姿で、カノンちゃんの前をうろつかない!!」
「王子? 今、なんと?」
「下着姿で」
「いえ、女神様のことを……」
「んっ? カノンちゃんだけど」
愕然とした表情で、フリードを見るとワナワナと身体を震わせる。イヤな予感がした。
「っ……王子ともあろう方が!! 女神様を!! そのようにお呼びするとはっ!!」
「はっ?!」
「女神様に、慈悲の女神様に!! あぁ、なんてお詫びすれば!!」
寝室から、男の嘆きが聞こえた。
心配になった2人は、部屋に入ると服に着替えたハロルドが歌音の前に跪いて謝りだした。謝っているのは、先ほどの下着のことを言った後からフリードが言った発言を延々と謝っている。
後ろのフリードはかぶりをふって、「おてあげ」という状態。綾音は頭を抱えだした。この男に、今、何を言っても聞く耳は持たないだろう。
「ハロルドさん? 私は、フリードさんに歌音ちゃんと呼んで貰って大丈夫だから」
「なんとっ?! お心の広く……」
「ハロルドさんも、そう呼んで」
「いけません!! 女神様のお名前をそのように軽々しく口にするのは!!」
ハロルドは、こうと想い決めると譲らない。この男の悪い癖だと、フリードは思った。
翌日からは、歌音は仕事だった。いつも通りに、いつもの電車に乗っているのだが……。
目の前の大男が、今日は満員電車で周りの男性を睨みつけるような瞳でいる。ぎゅうぎゅう詰めの中で、彼が歌音が押しつぶされぬようにしてくれているのはいいが……。列車がカーブで曲がっても、ビクともしていない。とてつもない体幹というか、足の踏ん張りに力。
周りの乗客の方が、驚いている。
いつも降りている会社近くに降りる時は、恥ずかしすぎた。お姫様抱っこをされての下車。
周りの痛い視線。彼が、自動改札を初めて見て出られないので駅員のいる改札口から出た。
「ハロルドさん……会社の中には入れないから。あの、さっきの駅員さんのいる改札口から」
「いけません!! 女神様を残して帰るなど!!」
「えっ、あの」
「女神様を護衛するのも、騎士として忠誠を誓った俺の仕事です!!」
大きな声を張り上げて言うハロルド。女神様の護衛が出来る喜びを言い始めた。
会社の周りを通る人たちが、こちらを見ながら「えっ、何かの撮影?」「なに言ってんの?」「女神様?」と言ったりしている。
彼の大きな手をとり、会社の近くから離れる。彼は女神様に手を握って貰えている喜びが勝っていた。
「ハロルドさん、お願いだから。その、女神様っていうのを」
「いけません!! 女神様を女神様とお呼びせずして、どうすれば良いのですか?」
「だ、だから……私は歌音って。藤井歌音って、名前があるから」
「王子のように軽々しく、女神様の御名を呼べません!!」
困り果てた歌音は、彼に、「お昼ご飯の時間にまた来るから、ここに居てください!!」と言って会社に向かった。
ーー女神様は、何故あのようなことを言うのだ? ーー
ハロルドは、昼の時間まで必死に考えを巡らせた。王子と討伐などに出た時は、【策士】としても活躍していたが。
いっこうに良い考えも、何も浮かばない。
ーー女神様に巡り逢えただけでないのか? きっと、これは女神様に俺が忠誠を誓えているか、試されているのだ!! ーー
そして、ハロルドの暴走は悪化の一途へと向かう。
昼休みにハロルドと朝別れた場所へと向かった。
小さい公園のベンチで、歌音の言われた通り待ち続けていた。大きな忠犬のように見えた。
「ハロルドさん」
「女神さま!! 分かりました!!」
「? あの、ご飯、食べてからでも……」
「あぁ、申し訳ありせん」
歌音が家で用意してきた、彼女の弁当を貰い受ける。彼女は、ハロルドに自分の弁当を渡したので、会社の近くのコンビニで買ったおにぎりとおかずを食べる。
彼が家で食べていた量を考え、コンビニ弁当を1つ買って渡した。頬張って食べている姿は、美味しく食べているので嬉しくなる。姉・綾音だけと食べるようになって、料理は上達するいっぽうだった。誰か男の人が、こうやって「おいしい」と言って、美味しく食べている顔を見るのは久し振りだった。
「ごちそうさま」
「ごちそうさま」
ハロルドは女神様を見習い、食事の前と後に挨拶を覚えた。
「あの、ハロルドさん……今日は、会社に来たけど。明日から来なくても大丈夫だから」
「しかし……あの様な箱の、大勢の人の中で。女神様に何かあっては……俺は……女神様をどう護れば良いのですか?」
「だったら、その、女神様と呼ぶのをやめて欲しいの」
最後は消え入りそうな声で言った。
ーー女神様はなんと? 呼ばない? どういう…… ーー
ハロルドは思考が停止したように、呆然としていた。
女神様は俺の護衛をいらない、と言うのか? そう、解釈を始めた。
「ハロルドさん? あの、私は……」
「女神様!! どうか、どうか!! 騎士として、お傍にいることは、傍で仕えさせて頂くことだけは!!」
ハロルドは彼女の両手を手にとり、「お願いです!! 女神様!!」と懇願してくる。
その懇願している男の瞳は、ひとりの女性に愛を受け入れてくれ!! と言っているように熱い眼差しでいる。
ドクッ、ドクン……
女性の瞳に魅入られて、心臓の早鐘がとまらない。呼吸が乱れ始めた。
いつの間にやら、ハロルドは女性、カノンを抱きしめている。柔らかくて、小さくて、花の匂いの護るべき女神様を……。
「女神様……俺は……」
男の瞳に、彼女の小さく紅くふっくらとしたものが入り込む。この紅く小さな……。
グッッ!!
ドサッ!!
ハロルドは尻もちをついた。目の前の、先ほどまで抱きしめていたカノンが、立ち上がり彼を見ると足早に立ち去った。
「えっ、女神様? 俺は、なにを? 」
手と身体、鼻くうには、カノンを感じた感触などがはっきりと刻みこまれていた。
帰り道、女神様の少し後ろをついて歩く。彼女のあの時の感触が刻み込まれた男は、必死に頭から忘れようとしていた。しかし、後ろ姿から想像してしまう。
あの時、感じた温かさを……。
ドクドクと全身に血が巡る。剣を握って、相手を倒す時の血の巡りの感覚とは全く違う。初めて感じる。
気が付くと、既に部屋に着いていた。
「ただいま」
「……っ……」
久し振りに女神様の声を聴いて、身体が、心がざわめき始める。
「た、ただいま」
ハロルドは、小さな声で言うと。「おかえりなさい」と柔らかい優しい声が返ってきた。女神様の声だとわかった。
彼は、ここが戻る場所だと何となく感じた。
その夜、彼は新しい仕事を女神様から仰せつかった。
留守番。
ハロルドは、護衛の代わりに新しい仕事を貰えたことを喜ぶ。彼女の傍に仕え続けられることを。
ただ、歌音だけは。彼に言いたいことを飲み込んで、夜を過ごした。