リヴィ・スノウはやわらかな嘘をつく
そのまま奥の部屋に駆け込み仕事道具の入った籠を掴む。マントを羽織り、そしてすこし考えて、古い詩集を手に取った。
「お待たせいたしました。行きましょう」
使いの男は一頭立ての馬車で待っていた。彼女はいそいそとそれに乗り込み、籠を膝の上でしっかりと支える。
馬は静かに夜道を駆け始めた。馬車の小窓から見える空には、丸い月がぽかりと浮かんでいた。
リヴィ・スノウはこの街の治癒士だ。母も、祖母も治癒士だった。治癒士は魔障を浄化する技を持ち、薬草にも詳しい。魔物による傷は魔障というひどい後遺症を引き起こす。これを癒すのが代々彼女たちの生業だ。
リヴィは先日二十一歳になった。幼い頃に母を亡くし祖母に引き取られこの街にやってきて十年、祖母を看取ってからはひとりで暮らしている。
馬車は古い建物の前で停まった。彼女はマントのフードを深く被り直し馬車から降りる。ひとけのない古い小さな屋敷の門をくぐり、そっと扉の前に立つ。
「いつもの通り、鍵は開けているのでそのまま入ってくれとのことだ。では」
使いの男は去っていった。