リヴィ・スノウはやわらかな嘘をつく

リヴィが扉に手をかけるとギイっと音がして木の扉は簡単に開いた。心臓がどきどきと波打つ。彼女は一度立ち止まり、大きく深呼吸した。

(嬉しいのはわかるけど、浮かれてはダメよ。レインス様は治療のために私をお呼びになったのだから。しっかり仕事しなきゃ)

 リヴィは自分に言い聞かせて、背筋を伸ばす。そして、屋敷の中へ入り、上の階、寝室のある部屋へと向かった。

 寝室の扉を軽くノックする。「どうぞ」と中低音のしっかりとした声が返ってきて、彼女はゆっくりと扉を開けた。

「こんばんは。レインス様。治癒士のスノウです。お加減はいかがですか?」
「すまない。また、こんな時間にお呼びしてしまった」

 そう広くない部屋には大きな寝台とテーブル、窓辺に書き物机がひとつ置いてあるだけだ。

ランプの灯りに照らされて姿勢良く座っている青年がメッセージの主、アルベルト・レインス。彼は西森の魔物討伐を果たした騎士団の団長だった。

 すこしウェーブのかかった豊かな赤茶の髪に、彫りの深い顔立ち。キリリとした眉と深い緑色の切長の瞳がどこか野生的な印象を与える。

勇猛さと誠実な人柄で、彼はこの街の英雄として尊敬を集めていた。凛々しく整った顔は並外れて美しい。そんな彼はここ半年ほどリヴィの治療を受けているのだ。

 リヴィは窓辺に近づくと、月の光を避けるように分厚い覆い布をおろした。

「いえ、いつでも呼んで頂いて大丈夫です。魔障を受けた方は夜に苦しまれる方が多いので」
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