リヴィ・スノウはやわらかな嘘をつく

 すまなそうに頭を下げるレインスに、リヴィはにっこりと微笑む。彼はどんな身分のものにも礼儀正しい。そんなところも好感を持たれている理由のひとつだ。

彼女はテーブルの上に籠を置くと、寝台へ腰掛けている彼に近づいた。

「では、さっそくですが腕を診せてくださいませ」

 彼は素直に左腕を出し、リネンのシャツの袖を捲り上げた。引き締まり、鍛えられた筋肉。戦士の腕が露になる。
だが、逞しい腕には肩から肘にかけて大きな黒い痣が走っていた。

鉤爪で引き裂かれたような醜く無残な黒い痣は、大きくなったり小さくなったりして渦を巻いている。

 彼の腕のなかに生きる傷、これこそが魔障だ。
魔障があると生命力は増すのだが、これが暴れるたびに傷の持ち主はものすごい痛みを伴う。

大人の男でも悲鳴をあげのたうち回るものも多い。彼のように平静でいられるのはそうそういないのだ。リヴィは黒い傷を見て眉を顰めた。

「少しずつ、薄くなってきていますが、満月になるとやはり、動き出してしまいますね」
「ああ。今日は早いうちから動き出す気配があった。ひどくなる前に処置してもらおうと貴女をお呼びしたんだ」
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