リヴィ・スノウはやわらかな嘘をつく
彼女は籠の中から小さなナイフと空の瓶、そして小さな水晶でできた瓶を取り出した。清潔な布を準備する。
「また、切開しなければなりません。……よろしいですか?すこし、というか、とても、痛いかも」
「大丈夫だ。気にせずやってくれ。早く全ての魔障を出してしまいたい」
もう痛みが始まっているのか、美しい眉を寄せて彼はそれでも笑おうとした。
「それに、貴女に処置してもらえるなら、どんな男でも喜んで腕を差し出すはずだ」
リヴィは、ぱっと彼を見た。冗談なのか本気なのかわからなかったからだ。
(この方は急にドキッとするようなことをおっしゃるから……すごく、恥ずかしい)
ランプの灯りに照らされた彼の顔は相変わらず端整で生真面目で、考えが読めない。彼女は俯いて、彼の腕の処置に集中することにした。
水晶瓶からきらきら光るゼリー状の液体を患部に塗りつける。そしてナイフを痣へ刺し入れた。すると、黒い液体がとろりと落ちてきた。彼女は空の瓶へそれを移しながら、丁寧に魔障を取り除いていった。
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初めて彼の傷を診たのはもう半年前になる。
アルベルト・レインスは遠く王都から来た若者というだけで、他はなにもわからなかった。
この街の騎士団はほぼ傭兵で構成された領主の私設警備隊だ。そこへ入団した彼はあれよあれよという間に騎士団長にまで出世したのだった。
その上品な立ち振る舞いから実は上級貴族だとか、もしかして、王族の血が流れているのではないかなど、さまざまな憶測が流れたが、彼はどれも落ち着いた表情で否定するだけで、結局出自は謎のままこの街の英雄となっている。
「この街の治癒士は貴女しかいないと聞いた。どうか、診て欲しい」
ある日、リヴィの診療所にレインスがやってきた。