リヴィ・スノウはやわらかな嘘をつく
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「……お疲れさまでした。今回取り除ける魔障はぜんぶ取れたと思います。いまから、傷を清めますね」
アビダルの清水を甕に張ったたっぷりの湯に注ぐ。とたんに森の清浄な香りが部屋に広がった。リヴィはこの香りが大好きだ。気持ちを落ち着け、安らかな気分にしてくれる。
彼の腕を湯に浸し、布で優しく傷を拭いてやる。これで痛みは少しずつ引いていくはずだ。レインスの眉間の皺がだんだんと緩くなり、いつもの落ち着いた表情に戻っていった。これで治療の第一段階は終了だ。
「ありがとう。助かった」
穏やかな瞳で礼を言われ、またまたどきんと胸が脈打つ。
「いえっ!これが仕事ですから……。それに、この調子ならあと一、二回の処置で魔障は全てなくなります」
「そうか! よかった。実は、痛みがあるたびに剣を持つのが辛かったんだ。これで、仕事に専念できる」
レインスは腕に触れてほうっと息を吐く。そして安心したように天井を仰いだ。
『私が魔障持ちであることはあまり公に話していないんだ。そのため、このような辺鄙な場所に呼び立ててすまない』
レインスは最初に仕事を依頼した時にそう断ってきた。
「大丈夫です。魔障があることを隠すかたがほとんどですので。私は呼ばれればどこでも伺いますから、どうかお気になさらずに」
それは本当は寂しいことだ。誰も彼女に世話になっていることを公言したがらないということなのだから。