幼馴染二人の遠回りの恋
元カレと彼氏役
「なっちゃん?」
「・・・ん?」
いかんいかん、彼に会ったことで
嫌な過去を思い出してしまった
「だいじょぶ?」
「うん、ありがと」
可愛い楓の頭を撫でると
ご機嫌で歌を歌い始めた
柴崎総合病院の産婦人科に入院する患者は、院長の奥さんの提案でフレンチレストランのシェフだったという料理長が作る絶品料理がお品書きと共に並ぶ
個人病院ならよくある話だけれど、総合病院での特別食は珍しいと瞬く間に口コミで広がり出産希望数を増やしているらしい
その柴崎院長夫妻は風馬の住むマンションの最上階に住んでいて
エレベーターやラウンジで会うとお喋りもする顔見知り
豪華な夕食を食べる妹は心配なのか楓のことを何度も念押ししてきた
「休みの日は遊びに連れて行くから」
「仲良しだもんね」
「そうね」
「フフ」
妹がヤキモチを妬くほど私と仲が良い訳じゃなくて
私と妹が一卵性双生児に間違われる程
よく似ているのが一番の原因だと思う
とは言え、大学進学と同時に一人暮らしを始めた私からすれば
電車に乗って態々実家まで出向く必要がある大仕事
ま、可愛い姪っ子のため
「任せといて」
「うん、よろしく〜」
スッカリお母さんの顔つきになった妹を見ながら
桐葉学園の中等部で旦那さんと付き合い始めた頃を思い出した
・・・
『お母さん、私。第三高校へ進むから』
『『『っ!』』』
両親は晴天の霹靂みたいな顔のまま固まるし
私も開いた口を閉じられなかった
桐葉学園のエスカレーターは途中下車可能
それは公立への編入か高等部を選ぶ時
大学進学のためには桐葉第一高校
卒業後が就職なら桐葉第三高校へと桐葉の中でも選択肢がある
ただ、唯一桐葉学園の巨大キャンパス内に校舎を持たない第三高校は、規律を重んじる本校から比べて、校則の緩さから少しやんちゃな生徒も多い
真面目だった椛が“第三”を選ぶとか
血迷ったとしか思えなくて
兎に角、家族で説得するしかないと思った
けれども紹介された彼氏と椛の仲の良さに
大学に進むだけが人生じゃないと最後に折れたのは父だった
彼氏は今じゃ立派な大黒柱だし、椛は良いお母さんになっている
一つ違いなのに未だに独身生活を楽しんでいる自分の方が少しだけ心配になった
「ところで、風馬とは順調?」
「順調って?」
「なっちゃん達お似合いなんだから
いい加減付き合えば良いのに」
「・・・ハハ」
「今年、二十六歳になるのよ?」
「・・・だね」
周りの反応はいつも同じだから乾いた笑いくらいしか返せない
風馬がいい奴だってことは知っているから
誰よりも幸せになって欲しいとも思っている