幼馴染二人の遠回りの恋
━━━━━━翌日
元カレ晴雄は風馬と出勤する私の目の前に現れた
家もスマホも変わった私の、唯一変わらない仕事場を選ぶあたり晴雄も馬鹿ではないようだ
出勤前なのだろう、五年前と変わらないスーツ姿に込み上げるのは嫌悪感だけ
「棗」
当たり前のように呼ばれた自分の名前を不快に思った瞬間
ピタリと隣に張り付いていた風馬は私を守るように一歩前へと出た
ビルに吸い込まれる人の流れを止めるように立ち止まった私と風馬を
レガーメの守衛さんが心配そうに見つめている
そんな状況が見えていないのか
それとも敢えての態度なのか
「棗、話がしたいんだ」
晴雄は周りに気遣いを見せることなく私に詰め寄ってきた
・・・なんなの
五年前も全て自分のことは棚上げで別れを告げる私を責めて
今回のコレも楓のことを勘違いしただけでこの有り様なのだ
いい加減にして、そう言おうとした口は一歩前に立つ風馬が発した声に止められた
「なんなのオッサン、朝から邪魔なんだけど」
「・・・っ、な、ん、だとっ」
・・・・・・オッサン、て
緩い風馬の声に苛立つ気持ちは一瞬で転換し、危うく吹き出しそうになるのを唇を噛むことで堪えた
一触即発な状況を察したのか、守衛さんがすかさず表に出てきた
「なにかお困りですか」
柔らかな物腰が向けられたのは私と風馬に向けてで
明らかに部外者の晴雄は困り事の対象
「守衛さん、この人よろしく」
風馬は内容を説明することなく、晴雄をよろしくと守衛さんに丸投げすると
「棗、行くぞ」
私を守るように肩を抱いてレガーメの通用口を潜った