幼馴染二人の遠回りの恋
「あの子は妹の子で私の子じゃない
それに、あの子が例え晴雄の子でも
やり直すとかありえないから」
「・・・妹の・・・」
「この際ハッキリ言わせて貰うけど
人類が滅びて晴雄一人になっても
私はアンタを選ばない
だから、もう帰ってくれる?」
混乱した様子の晴雄にキッパリと言い切ると、晴雄は彷徨わせていた視線を漸く持ち上げた
「・・・」
「警察沙汰にしない選択なら
このまま黙って帰るのが得策だぞ?」
それに畳み掛けるような風馬の口調と、従業員の視線を一身に浴びていることに今更気付いたようで
晴雄は乗り込んできた非礼も侘びないくせに
ひと睨みすることは忘れず出て行った
「・・・ハァ」
姿が見えなくなり息を吐き出した途端、脚に踏ん張りがきかなくなった
「おっ、ちょ、大丈夫か」
床に崩れ落ちる寸前で風馬に抱き止められた身体は
頭で考えるよりポンコツで
「しばらくコッチは大丈夫だから棗を休ませてやれよ」
心配してくれた新志の提案に頷くと、風馬に抱えられて社長室へと戻った
「・・・あの」
「ん?」
「なんでここ?」
「棗が心配だから」
姫抱っこで社長室に戻ったまでは良かったけれど
あろうことか風馬は私を抱いたままソファに腰掛けたのだ
「・・・えっ、と」
女子の憧れのお姫様抱っこは
頭で考えるより顔の距離が近いの知ってるのかな
「ん?」
それに、風馬の返しが
なんというか・・・
甘い
ん・・・でも、目元が完全に隠れた風馬の表情は読み取れなくて
少し上がった口角を盗み見るだけ
晴雄に会ったことなんて消え去るほどの風馬との距離感に動悸が激しく打って
風馬の唇から目が離せない自分に戸惑う
・・・私、どうしたんだろ
風馬にドキドキするとか
これは・・・んと
晴雄に会ったから・・・じゃなくて
風馬には何回もされているはずの姫抱っこなのに
動揺しすぎたのか、今日に限って頬に熱が集まってきた