幼馴染二人の遠回りの恋
「これ」
目の前に差し出されたのは、見た目にも騒々しい格好からは想像できない地味な鞄から取り出した封筒
受け取れとばかりに突きつけられ
「なに」
手を出すのを躊躇った
そんな私にイラついた様子で
「写真が入っているから、見てっ」
顎をしゃくったその姿は父親そっくりだ
渋々、ほんと渋々。本意ではないと言わんばかりに封筒を受け取る
糊付けのされていない中を覗いて見れば彼女の言うように写真らしきものが入っていた
封筒を逆さまにして中身を出す
見えたそれに息を呑んだ
「よく撮れてるでしょ」
一枚、一枚と捲るたび心が軋む音が聞こえる
写っていたのは高いセキュリティを誇る風馬の部屋から二人で出てくる所
エレベーターを待つ間のお喋りしている姿
マンションを出てレガーメへ出勤する姿だった
盗撮とも思えるそれらに恐怖で身体が震えてきた
「ねぇ知ってる?」
「・・・なに、を」
「私、風馬君と付き合うの。だからこれは浮気よね?」
「・・・え」
「風馬君たらパパと仲良しなのよ
最近派遣依頼も増えてるでしょ?」
確かにGラインからの依頼は増えている
それが金村茉莉乃との関わりだったとは思わなかった
無知な自分が悔しくて胸にどす黒い思いが広がる
金村茉莉乃と付き合うなんて嘘だと思うのに
最近はマンションで顔を合わせる機会が減っている事実が
風馬を信じたい気持ちを削いでくる
「風馬君のマンションから出て行ってくれる?」
「・・・それは」
「彼氏の家に別の女が住んでるとか、茉莉乃泣いちゃいそうなんですけど〜」
本当に付き合っているのなら正論だとは思うけれど
やっぱり金村茉莉乃の話だけを信じる訳にはいかない
「風馬と話してからにする」
精一杯強がってみたけれど
口元を隠して笑っている金村茉莉乃の思惑は計り知れなくて
見せられた写真をバッグに突っ込み逃げるように店を出た
勢いよく飛び出してはみたものの
このまま風馬のマンションには戻る決心もつかない
迷っているうちに、気がつけば足は椛の入院する柴崎総合病院へ向かっていた