幼馴染二人の遠回りの恋
中央駅前からバスに乗ること一時間
ウッカリ寝過ごしかけて
【開発団地前です】のアナウンスに慌てて飛び降りた
そこから緩やかな坂を上ると懐かしの我が家が見えてきた
「おそーい」
「ごめんごめん」
頬を膨らませて仁王立ちしている楓は五歳の可愛い姪っ子
ご機嫌をとりながらさっそく支度を手伝う
今日のお揃いの服はエプロン付きのワンピース
リボンのついた可愛い籠バッグは、楓のことを考えて親子バッグをネットで購入した
ガーリーなワンピースだから髪は両サイドを編み込んでリボンで結ぶ
「可愛い〜」
母は興奮して延々と携帯電話で写真を撮っていた
「楓ちゃん、帰りはじぃじと迎えに行くからね」
「うん。ママとまってる」
大袈裟な別れのハグを玄関で何度も何度もしている母に呆れながら
解放されると同時に楓と手を繋いだ
本日二回目のバスに乗り込むと空いていた席に座って楓の話に耳を傾ける
幼稚園の話が半分と買って貰ったランドセルの話が半分
ランドセルは赤か黒だった私の頃と違って
最近はカラー見本のようによりどりみどり
その中でも楓が選んだのはパステル調の綺麗な水色だった
お喋りに花を咲かせているうちに今度はあっという間に目的地の中央駅まで戻ってきた
ここで冒頭に戻る
まさか“元カレ”にバッタリ出会すなんて思ってもみなかったから
まだ心臓がバクバクしている
五年も経ったのに一瞬で彼だと分かる自分にもため息が出た
楓の手を離さないように注意しながらも焦る気持ちをなんとか落ち着かせる
楓を巻き込む訳にはいかないけれど
気づけば早歩きになっていた