幼馴染二人の遠回りの恋
side 風馬
腕の中にいる棗からフワリと力が抜けていく
・・・眠ったか
繋がっていた手が解けると同時に、華奢な身体を抱き上げた
棗の長い髪がサラリと落ちる
閉じたまつ毛が濡れていないことを確認して少しホッとした
◇◇◇
アイツが五年振りに棗の前に姿を現したことで焦った俺は
これを好機と捉えて棗に告白をした
棗も俺との関係を意識し始めてくれたようで嬉しさに舞上がったのも束の間
人生そんなに上手くはいかないってことなのか
金村茉莉乃の一件で穏やかだった棗との暮らしがギクシャクし始めた
一緒に住むようになって五年
お互いに此処が“我が家”と呼べる居心地の良い空間になっていたと思う
棗との大切な日々を、これからも続けるために俺ができること・・・
金村の思惑を想像するに、父親を使って俺に揺さぶりをかけてくるはず
そう考えた俺はGラインからの仕事が切れても困らないように、棗に黙って事を起こしていた
大手の人材派遣会社に勤務する桐葉の先輩に会ってからは情報を貰いながら更に没頭していった
直に終わる予定だったそれが、間違っていたと気づいたのは
此処で暮らすようになって初めて、棗が行き先も告げず顔を背けて出掛けた後だった
棗を想っているはずなのに俺は棗の笑顔を曇らせている?
結局、俺の想いは空回りなのか
「棗」
ソファの上で存在感を放つ棗のお気に入りのクッションに触れた途端、目頭が熱くなった
金村が現れる前の告白が消えてしまわないように
強引かつ大胆に攻めると決めたんだ
不甲斐ない自分に喝を入れて
棗が戻るまでに全部終わらせるとスーツを着た