幼馴染二人の遠回りの恋
新たな営業先も手応えアリ
棗に良い報告ができると帰りの足取りは軽くなった。が
家に戻っても棗の姿は見えなかった。
落ち着かない気持ちのまま着替えを済ませ、棗を待っていた俺にかかってきたのは椛からの電話だった
(今ね、なっちゃん帰ったところ)
「椛の病院に行ったんだな」
(なっちゃん泣いてたよ)
「・・・っ、なんで」
(それは私が言うことじゃない)
「そうだよな」
(風馬)
「ん?」
(五年も一緒に住んでるのに、何やってんの)
「ごめん」
(一歩踏み出す勇気は?)
「あるよ」
(想いは伝わってこそ形になるんだからね)
「わかった」
(ちゃんとしてね、ほんと。手がかかる二人)
「ごめん」
(じゃあね)
◇◇◇
椛は子供の頃からヘタレな俺を応援し続けてくれている理解者
今回の電話も核心には触れないまでも
棗が泣いたという重要なところだけは教えてくれた
棗のために俺がするべきは全てを曝け出すことだ
起業して六年
順風満帆と言えば聞こえは良いが、目まぐるしく過ぎる日々の中で一番堪えたのは棗がアイツに取られたことだったと思う
景色から色が抜けるってこんな風なのかと自嘲するほど落ち込み
燻る胸の内を椛に見透かされて逃げるように此処に来た
親父と一緒に始めた投資が順調に伸びて棗との将来のためにと購入した部屋だったけれど
自室以外はソファを購入しただけ
一人で住むには広すぎて後悔ばかりしていた