幼馴染二人の遠回りの恋
自分から逃げた癖に棗と通勤できないことに落ち込んだり
休日偶に出かけるチャンスまで逃してしまった
棗の鞄から時折のぞく大阪の企業パンフに心が折れそうにもなった
それでも、一生一人で生きていく覚悟まで決めたのは棗への想いを貫きたかったから
そんな俺に届いたのは馴染みの居酒屋の店主からの焦った声だった
(風馬、棗ちゃんが大変だから直ぐ来てくれ)
慌てて部屋履きのまま飛び出した俺が見たのは悲痛な表情で涙を流す棗の姿だった
あれから五年
棗には悪いが千載一遇のチャンスを逃す訳にはいかなかった
ただ・・・
ふとした拍子に陰る棗の表情を見るのが辛くて
棗を大事にし過ぎた
違う
どこか腫れ物に触るような感覚だったんだと思う
棗の涙を見るのがこんなに苦しいのに
ほんと俺、成長できてないな
「棗」ごめん。もう間違えないよ
◇◇◇
出迎えるために玄関に立っていた俺が目にしたのは真っ赤な目をして帰ってきた棗だった
堪らず抱きしめた瞬間
華奢な棗が、さらに小さくなった気がして泣きそうになった
◇◇◇
眠ってしまった棗を離したくなくて俺の部屋に連れてきた
ダブルサイズのベッドで良かった
そっと棗をおろして布団をかける
顔にかかる髪をそっと払うと棗の唇が目に入った
・・・キス、したよな
夢じゃないことを実感するために頬を摘んでもらうはずだったのに
潤んだ瞳で手を伸ばした棗は、小さな手を頬に当てるとつま先立って俺にキスをした
思い出すだけで泣きそうだ
幸せを手放さないよう、小さな棗の手を握って目を閉じた
side out