幼馴染二人の遠回りの恋
side風馬
金村に関わってから普段乗らない電車を使うようになった
それもこれも棗と家族しか乗せたことのない車に金村を乗せたくなかったからだ
タクシーに乗るたび俺の車に乗りたいと口を尖らせていたが無視をした
それも今日で終わらせる
郊外の駅の改札を抜ける
低い建物しかない駅前通りの中で異様に大きな看板を掲げる其処へ足を向けた
ガラス扉なのに目張りしている所為で中の気配はおろか異様な圧まで感じるから全然入りたくない
一度深呼吸すると気持ちを切り替えた
[インターフォンを押してください]
手書きのそれを無視して扉を開くと一瞬でフロア中の視線を集めた
「・・・っ!風馬君じゃーん」
目敏く反応した人物に一気に眉間に皺が寄った
「なになに、今日はどうしたの?
もしかしてサプライズで茉莉乃を迎えに来たとか?」
保険としてスマホのカメラをONにしたままの俺に向かって
金村がハイヒールで駆け寄ってきたことを確認して
「社長と話があって]
此処へ来た目的が違うということを告げた
途端に頬を膨らませた金村は
「え、パパ?モォォォォ風馬君たら
わざわざパパに挨拶してくれるの?
茉莉乃すごく嬉し〜い」
クネクネと身体を動かして上目がちに笑った
・・・ウゲェ。んなこと言ってねぇし
さっきから同じ顔をしているはずなのに脳内お花畑は変換作業すらおかしいようだ
大きな声を上げる金村を見ていた従業員の男性が奥の扉へと入って行くのが見えて
間を開けず金村社長が其処から出てきた
「立ち話もなんだろう」
手招きに従って足を進めると
「風馬君、あとでね〜」
気持ち悪い猫撫で声が背中にかかった
「茉莉乃と約束してるのか?それなら無理に挨拶せずとも連れて行っても良いぞ?」
煙草の臭いが充満した社長室に一瞬顔を顰めたけど
もう二度と来ることもないと背筋を伸ばした