幼馴染二人の遠回りの恋



落ち着かない気持ちのまま動けずにいた

どのくらいそうしていたのかロック解除の音がすると同時に扉が開いた


「棗っ、ずっと此処に?」


酷く慌てた様子の風馬は玄関で膝を抱えて座っている私を見て目を見開いた


「うん」


「ごめん。遅くなって」


風馬に手を引かれて立ち上がると腕の中にスッポリと収められた


「風馬、おかえり」


「あぁ、ただいま
どこか痛いところはない?」


「大丈夫だよ。座っていただけだもん」


「心臓が止まるかと思った」


「大袈裟だよ風馬」


「大切な棗のことだから全然大袈裟じゃないよ」


何があっても真っ直ぐ私を見てくれる風馬に頬が緩む


「・・・ありがとう」


「ずっとこうしててもいいけど
ひとまず中に入れて欲しいかな」


「あ、ごめん」


慌てて離れると風馬の手を引いた


リビングルームのソファに腰を下ろして風馬を見る


一度フワリと笑った風馬は


「とりあえず安心させたいから結末から言うとGラインを切ってきたよ」


そう言って私の手をギュッと握った


「本当?」


「うん本当。だから安心して」


「良かった。風馬ありがとう」


「ウインドをたった五年で潰す訳にはいかないからね」


そう言った風馬はGラインへ派遣している社員から今回聞き取りしたクレームを並べた


「先ずはアプリで管理していたホットラインをより強化してサポートを充実させるよ
これまで登録を解除する派遣社員がいなかったのが奇跡だと感謝して
Gラインに派遣していた人達から早急に面談しないとな」


「急務だね」


Gラインに限らず、聞き取りを始めなければウインドの未来は危うい


「金村のことは良いキッカケになったと思うことにしよう」


風馬の言う通り、雑誌に載らず金村茉莉乃も絡んでこなければ
今も苦行を強いられていた派遣さんもいただろう
結果的にプラスの“キッカケ”になったと思わなきゃ


「とりあえず出かけようか」


「うん」


ネクタイを緩める風馬にうながされるまま着替えを済ませて家を出た



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