幼馴染二人の遠回りの恋
手を繋いで待っていると、珍しく降りてきたエレベーターには柴崎総合病院の院長夫妻が乗っていた
「こんにちは」
いつ見てもアイドル顔の院長はカッコいい
「進さん。こんばんはじゃない?」
ツッコミの早い奥さん
「あ、そうだね。こんばんは」
「「こんばんは」」
絵になる二人の甘い掛け合いにクスッと笑って挨拶をすると
「あっ。柴崎さんっ」
風馬が突然声を上げた
「ん?どうかした?」
院長は風馬を見て首を傾げる
「例の、捻挫のことなんですけど」
「?」院長に向けて話しかけた風馬に驚いているうちに
「あーあの話ね」
院長は話が繋がったようで頷いてみせた
「今日ハイヒールで走る様子が撮れました」
スマホを取り出して“とれました”ということは“撮影”したということだろう
「へぇ、それ見たいね」
院長は肩を抱いている奥さんの頭の天辺にキスを落とすと
「みよちゃん少しいいかな」
首を傾げて奥さんの顔を覗き込むとオデコにもキスをした
「うん。いいよ」
可愛く微笑んで院長を見上げる奥さんは去年大学を卒業したばかり
学生結婚していたことにも驚いたけれど、もっと驚いたのは干支一回りの二人の年の差
いつも院長の腕の中にいて、見ているこちらが赤面しそうなほど仲が良い
その二人の邪魔をするのは忍びないけれど“捻挫”と“ハイヒール”というキーワードを聞いただけで私も頭を下げていた
「じゃあこのままロビーで座ろっか」
「はい。お願いします」
乗っているエレベーターはアッパーフロア専用
景観条例で20階までしかないのにエレベーターは二基の贅沢な仕様
11階を過ぎるとフロントのある二階まではノンストップ
到着するとラグジュアリーなロビーにいくつか配置されているソファに腰掛けた