幼馴染二人の遠回りの恋
「さぁ、行こう」
「うん」
車を校門前の広いスペースに止めて手を繋いだ私達の前に安森さんが現れた
「いらっしゃい」
「こんばんは。お久しぶりです」
守衛の制服姿が懐かしい
「棗ちゃんに会うのは久しぶりだね」
優しく声をかけてくれるのも当時と変わらない
「俺達はゲームで繋がってるから」
そう言った風馬に安森さんは大きく頷いた
「三十分くらいしか時間ないけど大丈夫か?」
「それだけあれば充分」
時間のことを気にしている二人の会話を聞いていれば
「棗、急ごう」
風馬に繋いだ手を引かれた
「ん?何処に?」
慌てて歩幅を合わせるけれど、風馬とのコンパスの差に躓きそうになった
「おっと、ごめんごめん」
気づいて緩めてくれる風馬は少し焦っているようにも見える
「大丈夫。走る?」
「いや、そこまでは大丈夫」
通用門からキャンパス内に入ると
「グッドラック」
安森さんが大袈裟な敬礼をしてくれた
「ラジャー」
それに笑って応える風馬に釣られるまま足を踏み入れたのは
高等部の校舎の中庭だった
学園内は等間隔に配置された照明の灯りのみの幻想的な静寂さを感じる
風馬が迷いなく向かったのは在学中は校舎から眺めただけの噴水ベンチだった
「風馬」
見上げた風馬の視線は真っ直ぐ噴水ベンチに注がれている
「棗と座りたかったんだ」
ポツリと溢した声はずっと私を想ってくれた風馬の願いが込められているようで胸が苦しい
その想いを受け取るようにベンチを前にして動けない風馬の手を引いた
「座ろう、風馬」
「・・・うん」
ランチタイムはカップル専用になる噴水ベンチ
あの頃座ることは叶わなかったけれど
ここに来たかった風馬の気持ちは分かる
繋いだままの手を握り直した、瞬間
ザーーー
止まっていた噴水の水が流れ始めた
「っ!びっくり」
「安森さんだな」
「フフ、粋なサプライズ」
「あぁ」
更には噴水の中のスポットライトまで点灯した