幼馴染二人の遠回りの恋



「ワァ、綺麗」


「ほんと」


二人のためだけのイルミネーションに魅入る


宴会を抜け出してまで連れてきてくれた風馬にお礼を言おうと隣を見上げれば

噴水を見ていると思った風馬と目が合った


「風馬?」


その目がいつもより真剣で


どうしたの、と続けるつもりの口は止まってしまった


「本当は高等部に進級したら棗と毎日此処でお弁当を食べるって決めてた」


「・・・知らなかった」


「それも俺のヘタレの所為で叶わなかった」


「カップル限定だったもんね」


「だから今日は大人のコネを使って棗と此処に座りに来た」


風馬は繋いだ手を離して指を絡めると一度大きく息を吸い込んで私を見た


「城ヶ崎棗さん。僕と結婚してください」


真剣な眼差しに恋人として付き合いが浅いなんて愚問は霧消する


風馬らしい真っ直ぐな言葉に込み上げてくる沢山の感情と

絡めた指から伝わってくる風馬の緊張感が胸を騒がせる




視界を揺らす涙を堪えて


「はい。よろしくお願いします」


声を絞り出した途端、風馬への想いごと溢れ出した


「棗、ありがとう」


「こちらこそ」


逞しい風馬の胸に顔を埋める


その胸から伝わる早い鼓動も風馬の気持ちを表しているようで心地良い


「恋人の期間が極端に短いけど」


「全然平気」


「ありがとう棗」


「風馬も」


「あぁ」


そっと身体を離した風馬と見つめ合う


「泣き虫」


「風馬も」


二人で笑い合ったあと、風馬はポケットから小さな箱を取り出した


お決まりのように開かれた箱の中から夢にまで見た一粒ダイヤモンドが現れた


「可愛い」


「だろ」


リングを抜き取った風馬は私の指に通しながら「愛してる」と囁き微笑んだ




「・・・風馬」




サイズがピッタリなことも
昔絵本を読んで憧れていた指輪を選んでくれたことも


自分をヘタレと言った風馬の気持ち全てが愛おしい


「私を選んでくれてありがとう」


「あぁ」


「風馬が待ちくたびれなくて良かった」


「棗じゃなきゃ一生一人だった」



風馬の揺るがない想いが胸に響いて




もう一度風馬の胸に飛び込む




背中に手を回して何度も何度も名前を呼ぶ







たくさん遠回りしたけど


もう間違わない




近過ぎて気付けなかった風馬の想いごと抱きしめた







fin












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