幼馴染二人の遠回りの恋
「楓、ママのお見舞い行くよ〜」
「オッケー」
買い物を済ませてカフェでアイスクリームを食べたあとは、妹の入院する柴崎総合病院へと向かった
現在、双子を妊娠中の妹、三浦椛《みうらもみじ》は
一時は早産の危機すらあって。それを乗り越えたのも束の間、予定日まで残り六週というところで入院を余儀なくされた
一人目は高校を卒業後直ぐに授かったこともあり
二人目も当然のように自然に授かるものと考えていたらしいのだが
二人目不妊という現実に病院通いを決めた
治療を始めて2年、授かった念願の子供は双子
お腹に二人もいるというマタニティライフは思ったよりも大変らしく
近くに住む両親が付きっきりでサポートしてきた
そのサポートは生まれてからも続くけれど
目下、妹の一番の心配事は楓のことらしい
「楓〜」
「ママぁ〜」
大袈裟に抱き合う妹と姪を見ているだけで幸せな気持ちになる
さっきまで私のことを“ママ”呼びしていた癖に
変わり身の早さは五歳児とは思えない
早速買い物してきたばかりの洋服を出して
楽しそうに話しているのを見ると
寂しいのかなって、少し胸が苦しくなった
「ママ、バスをおりたらねっ
なっちゃんのしらないオジサンにあったよ?」
「なっちゃんの知らないオジサン?」
訝しげに私を見上げる妹に白旗をあげて白状することにした
「晴雄《はるお》に会ったの」
「えーー、あの浮気野郎?」
「んで、楓を“俺の子か”って」
「なにそれ、ウケる」
「楓がタイミング良く“ママ”なんて呼ぶから更にダメ押しになったみたいで」
「写真撮っといてよ、ネタにしたいから」
「そんな暇ないわよ」
「てか、大阪から戻ってきたのかな?」
「どうだろ?」
「押しかけてくるんじゃない?」
「家もスマホも変えたんだから押しかけられるところがないし
第一、あれから五年も経ってるんだよ?」
呆れ気味に肩を上げて見せれば
椛は渋い顔で人差し指を小さく振った
「あの手の男は、女は全員自分を好きになるって勘違いしてるんだから
なっちゃんに無視されて捨てられた過去なんて消し去って
会いたかったよ〜なんて五年振りの再会に涙するんじゃない?」
「なにそれ」
その言葉に忘れかけていた五年前の嫌な記憶が蘇ってきた