幼馴染二人の遠回りの恋
酷く泣きながら気がつけば足は行きつけの居酒屋に向かっていた
『ど、うしたっ、棗、ちゃんっ』
クリスマスイブに泣きながら現れた私を
大慌ての大将は従業員用の休憩室に入れてくれるとガタガタと震える私を毛布で包んでくれた
『大丈夫だよ、すぐに温まるからな』
何も聞かずに毛布ごと抱きしめて背中を摩ってくれる大きな手に身体の強張りが解けていく
『棗っ』
そこに飛び込んできたのは風馬だった
『・・・なんで』
『女将さんから電話もらった』
『・・・ゔぅ』
その日は人の優しさに触れるたびに泣けてきて
結局、閉店まで休憩室を占領し
『今夜は俺ん家に泊まるといい』
余程酷い顔をしていたのか、風馬に連れられて店を出た
風馬のニット帽を深めに被せられて歩くこと数分
足を踏み入れたのは、風馬が最近引っ越したマンションだった
『なに、ここ』
『ん?俺ん家』
泣きすぎで酷い顔も忘れてキョロキョロしてしまうのは許して欲しい
だって・・・
『宝くじが当たったの?』
『ん、まぁ、そんなもん』
中央駅裏に聳え立つマンションは分譲で
エレベーターの止まった階は18階
最上階ではないけれど二階下というだけの気後れするような所だった
セキュリティのかかる門扉に重厚な玄関ドア
一斉に点く照明にゆとりのある廊下
泣いたことも忘れて風馬より先に靴を脱いだ私は
手当たり次第に扉を開けて探検を始めた
『なんもない』
引っ越したばかりだとはいえ
あまりの物の無さに一瞬で興味が失せた
『そこに座って』
『うん』
広いリビングルームには大きなソファだけはあって
そこに膝を抱えて座った
『んで?』
『うん』
『あの男?』
『・・・うん』
『想定内過ぎて驚きもないな』
『・・・想定内、か』
本当は遠距離も我慢するつもりだった
風馬には悪いけれど卒業後は大阪へ行く決心もした
また泣きそうになる私の頭をぐしゃぐしゃと撫ぜた風馬は
ソファから立ち上がるとキッチンへと入って行き
『ほら』とホットミルクを持って戻ってきた
『・・・んまい』
『んで、どうするの?』
『どうって、別れるわよ』
『だよな』
『追い縋るような女じゃないのよ』
『ギャン泣きだけど』
『これは悔し涙よ』
『そういうことにしとく』
悔しいけど、風馬の隣は居心地が良くて
ミルクの温かさに解れた身体は
そのまま深い眠りへと落ちていった