マリーゴールドで繋がる恋~乙女ゲームのヒロインに転生したので、早めに助けていただいてもいいですか?~
第1章 12歳:出会い
私、マリアンヌ・カルヴェが前世の記憶を思い出したのは、お母様の葬儀でのことだった。
まだ十二歳のマリアンヌは、母親の死を受け止められなかったらしく、代わりに誰かが引き継ぐ必要があった。その白羽の矢に私が当たった、ということらしい。
彼女がいなければ、この世界、乙女ゲーム『アルメリアに囲まれて』が成り立たない。なぜならマリアンヌはヒロインなのだから。
「マリアンヌ。お母様にお別れをしなさい」
戸惑いながらも、横にいる男性に背中をそっと押されて棺に近づく。
中にいる金髪の女性は、まるで眠っているかのように見えるほど美しかった。私はマリアンヌの記憶を頼りに、持っている白い花を棺の中に入れ、静かに目を閉じた。
涙が流れないのは、中身がマリアンヌじゃないから。けれど、体は悲しいと私に訴えていた。
「大丈夫かい?」
見上げると悲しい紫色の瞳と目が合った。黒い髪は整えられていたが、顔は憔悴しきっている。カルヴェ家特有の色合いを持つこの男性は、マリアンヌの父、ロラン・カルヴェ伯爵、その人である。
「はい」
そう言いながらも、私はお父様の袖を掴み、顔を埋めた。
こんなにも悲しんでいるのに、娘の私が平然としていてはいけない。勿論、取り乱すことも。だってお父様は、お母様だけでなく、マリアンヌも同時に失ったのだから。
そこでようやく涙が出た。私の気持ちとは裏腹に、空は爽やかな快晴だった。
***
流れる金髪。そこから覗くオレンジ色の瞳は、憂いを帯びていても、可愛らしく見える。
教会からの帰り道、揺れる馬車の窓に映る自分の姿を見て、私は確信した。本当に乙女ゲーム『アルメリアに囲まれて』のヒロイン、マリアンヌ・カルヴェだと。
葬儀の最中はまだ、半信半疑だった。だって、前世でプレイしていた乙女ゲームに転生なんて、そんなテンプレが私の身にも起きたんだから。しかも、悪役令嬢じゃなくてヒロイン。
これは普通に乙女ゲームをしろという暗示? いや、それはマズい。非常にマズいわ。
屋敷に戻ってから、私は急いで机に向かった。なぜならこれから待ち受けているのは、悲劇だったからだ。
『アルメリアに囲まれて』は、マリアンヌの父親、ロラン・カルヴェ伯爵が亡くなるシーンから始まる。
先に母親を亡くしていたことと、マリアンヌが成人していなかったこともあり、父親の弟が後見人となって、助けてくれるはずだった。
しかし、叔父がマリアンヌに強要したのは、使用人と同じ生活。そして、自分はいけしゃあしゃあと伯爵の地位を手に入れるのだ。
そのため伯爵令嬢という立場は、事実上従姉妹の物となった。
とまぁ、そんな設定だ。
私はそれを紙に書き終えると、次に攻略対象者たちの名前を記入していく。
攻略対象はそれぞれ、王子、侯爵、従兄弟、使用人、商人の五人だ。
共通ストーリーを経て、攻略対象者のルートを選んで進むため、逆ハーレムができない乙女ゲームだった。
ちなみにそれぞれのルートの内容は、王子はざまぁ、従兄弟は伯爵家奪還、使用人は駆け落ち、商人は伯爵家没落、侯爵はざまぁと伯爵家没落のセットとなっている。
なぜセットかというと、この侯爵がマリアンヌの父親の死の真相を暴いてくれるからだ。
そのため、王子ルートと関連する。ちなみに同じ没落を迎える商人ルートは、伯爵家を破産させるため、侯爵が関わることはない。
「そうなると、今からできることは、一つしかないわね。お父様を助けること。……なんだけど、肝心の原因が思い出せない」
前世でプレイした乙女ゲームだったが、全ルートを制覇したわけじゃない。加えて、好きじゃないシーンは頭に留めないため、幸せになるための布石である、悲劇はスルーしていた。
もう少し言い訳をすると、冒頭シーンは何度も通るため、スキップしてしまい記憶が薄く。さらに攻略対象者たちとのイチャイチャシーンで、頭の隅にあった記憶が追い出されて、ないに等しくなっていた。
「製作者の皆様、すみません」
ここで謝っても、思い出せるものでもないんだけど。
「とりあえず、侯爵を探そう」
真相を暴くための探偵を先に見つけて、味方にすれば、勝機があるかもしれない。私はそれに賭けた。
悲劇が起こることを、わざわざ待ってなんていたくない。いくらその先に幸せがあったとしても。
***
「お父様、教会に行ってもいいでしょうか」
翌日、私は朝食の席でお父様に尋ねた。
「うん。行っておいで」
簡単に承諾してくれたのは、お母様のために祈りに行くと思ったからだろう。勿論、それも理由の一つだが、本命は教会の隣にある孤児院だった。
そこに未来の侯爵がいる。エリアス・バルニエが。
まだ十二歳のマリアンヌは、母親の死を受け止められなかったらしく、代わりに誰かが引き継ぐ必要があった。その白羽の矢に私が当たった、ということらしい。
彼女がいなければ、この世界、乙女ゲーム『アルメリアに囲まれて』が成り立たない。なぜならマリアンヌはヒロインなのだから。
「マリアンヌ。お母様にお別れをしなさい」
戸惑いながらも、横にいる男性に背中をそっと押されて棺に近づく。
中にいる金髪の女性は、まるで眠っているかのように見えるほど美しかった。私はマリアンヌの記憶を頼りに、持っている白い花を棺の中に入れ、静かに目を閉じた。
涙が流れないのは、中身がマリアンヌじゃないから。けれど、体は悲しいと私に訴えていた。
「大丈夫かい?」
見上げると悲しい紫色の瞳と目が合った。黒い髪は整えられていたが、顔は憔悴しきっている。カルヴェ家特有の色合いを持つこの男性は、マリアンヌの父、ロラン・カルヴェ伯爵、その人である。
「はい」
そう言いながらも、私はお父様の袖を掴み、顔を埋めた。
こんなにも悲しんでいるのに、娘の私が平然としていてはいけない。勿論、取り乱すことも。だってお父様は、お母様だけでなく、マリアンヌも同時に失ったのだから。
そこでようやく涙が出た。私の気持ちとは裏腹に、空は爽やかな快晴だった。
***
流れる金髪。そこから覗くオレンジ色の瞳は、憂いを帯びていても、可愛らしく見える。
教会からの帰り道、揺れる馬車の窓に映る自分の姿を見て、私は確信した。本当に乙女ゲーム『アルメリアに囲まれて』のヒロイン、マリアンヌ・カルヴェだと。
葬儀の最中はまだ、半信半疑だった。だって、前世でプレイしていた乙女ゲームに転生なんて、そんなテンプレが私の身にも起きたんだから。しかも、悪役令嬢じゃなくてヒロイン。
これは普通に乙女ゲームをしろという暗示? いや、それはマズい。非常にマズいわ。
屋敷に戻ってから、私は急いで机に向かった。なぜならこれから待ち受けているのは、悲劇だったからだ。
『アルメリアに囲まれて』は、マリアンヌの父親、ロラン・カルヴェ伯爵が亡くなるシーンから始まる。
先に母親を亡くしていたことと、マリアンヌが成人していなかったこともあり、父親の弟が後見人となって、助けてくれるはずだった。
しかし、叔父がマリアンヌに強要したのは、使用人と同じ生活。そして、自分はいけしゃあしゃあと伯爵の地位を手に入れるのだ。
そのため伯爵令嬢という立場は、事実上従姉妹の物となった。
とまぁ、そんな設定だ。
私はそれを紙に書き終えると、次に攻略対象者たちの名前を記入していく。
攻略対象はそれぞれ、王子、侯爵、従兄弟、使用人、商人の五人だ。
共通ストーリーを経て、攻略対象者のルートを選んで進むため、逆ハーレムができない乙女ゲームだった。
ちなみにそれぞれのルートの内容は、王子はざまぁ、従兄弟は伯爵家奪還、使用人は駆け落ち、商人は伯爵家没落、侯爵はざまぁと伯爵家没落のセットとなっている。
なぜセットかというと、この侯爵がマリアンヌの父親の死の真相を暴いてくれるからだ。
そのため、王子ルートと関連する。ちなみに同じ没落を迎える商人ルートは、伯爵家を破産させるため、侯爵が関わることはない。
「そうなると、今からできることは、一つしかないわね。お父様を助けること。……なんだけど、肝心の原因が思い出せない」
前世でプレイした乙女ゲームだったが、全ルートを制覇したわけじゃない。加えて、好きじゃないシーンは頭に留めないため、幸せになるための布石である、悲劇はスルーしていた。
もう少し言い訳をすると、冒頭シーンは何度も通るため、スキップしてしまい記憶が薄く。さらに攻略対象者たちとのイチャイチャシーンで、頭の隅にあった記憶が追い出されて、ないに等しくなっていた。
「製作者の皆様、すみません」
ここで謝っても、思い出せるものでもないんだけど。
「とりあえず、侯爵を探そう」
真相を暴くための探偵を先に見つけて、味方にすれば、勝機があるかもしれない。私はそれに賭けた。
悲劇が起こることを、わざわざ待ってなんていたくない。いくらその先に幸せがあったとしても。
***
「お父様、教会に行ってもいいでしょうか」
翌日、私は朝食の席でお父様に尋ねた。
「うん。行っておいで」
簡単に承諾してくれたのは、お母様のために祈りに行くと思ったからだろう。勿論、それも理由の一つだが、本命は教会の隣にある孤児院だった。
そこに未来の侯爵がいる。エリアス・バルニエが。
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